金融

金融危機と金融リタラシー

「日本の金融リタラシー(金融常識)を向上しなくてはならない」と言われて久しい。今次の金融危機の議論を聞いていても、聞こえてこない当たり前の金融常識を列挙してみたい。①円高は世界における日本人の地位を上昇させている。大半の日本人は円建てで純資…

10月相場をどうするかⅡ

10月の金融・株式市場は大荒れになることが多かったし、今年は不安材料も多くあったことから、結局、TOPIXショートのロング・ショート・ポジションを維持した。(9月5日ブルグ参照)ロング(買い持ち)で銀行と商社株の比率が高かったことから、損失が若…

「インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実」

私が専門にしてきた金融分野を対象にしたアカデミー賞受賞ドキュメンタリーであるから、観るのを楽しみにしていた。映画館は遠隔地だったので、DVD化されたので早速観賞した。 マイケル・ムアーのドキュメンタリーよりは正統派で洗練された作りで、イルカ…

10月相場をどうするか

夏休み前に、TOPIXをショートしておいたが、グローバルな株式市場の下落が予想以上で、休暇中にまたもや損失が増加し、年初からタダ働きをしてしまったことになる。多少の慰めは、子供が留学していていた時には、230円で買っていたポンドが130円…

相場操縦

世界的な株安が続く中、米国国債の格下げもあり、明日の東京市場は結構な円高・株安で始まることになろう。これで、年初から積上げてきた株式投資の利益がほぼ吹っ飛ぶことになり、外貨投資の評価損が増加することにもなり、大変残念である。 中期的には、米…

善意か、それとも地震デリバティブか

東北大震災には、数限りない悲劇と多くの小さな善意が錯綜しており、何度も泣かされている。今晩も被災地に缶詰パンを無料で届ける「パン・アキモト」の話に感激し、義捐金を送金したところである。少額の義捐金位しか能が無いから、もう何度目かの善意の義…

東京電力の責任とその負担

KMVというベンチャービジネスが、90年代前半に企業の信用リスク計測モデルを開発し、世界の機関投資家が採用するまでに普及した。株価変動とオプション理論を応用した優れたモデルであるが、先方が日本企業への応用に苦労していたこともあり、何度かサ…

東北関東震災と資産運用

被災地の惨状が続いている現状で、資産運用を語ることには多少の罪悪感があるが、明日になれば証券市場や為替市場の取引が行われるわけで、自分の老後を託す資産運用に携わる個人投資家として、また大学で金融や証券投資分析を教え、金融機関のコンサルタン…

東北関東震災と資産運用Ⅱ

本日の株式市場は、海外株式市場の上昇、寄付き直前の外資系証券の大幅買い越しから、日経平均は9500円を回復、9608円の大幅高で終えた。10時の段階で当面のリバウンドは終わったと考え、買い持ち(ロング)の一部を売却し、上場TOPIX投信の空売り…

原子力発電所の安全性

東京電力福島第一原子力発電所は、計6基の原子炉のうち4基で、深刻な事故が相次いで発生し、原子炉が十分に制御できない状態に陥っている。思い出すのは1979年の米国ペンシルベニア州のスリーマイル島(TMI)原子力発電所で発生した原発事故と、80年…

黒木亮「獅子のごとく」

数年前から、突然の腰痛に苦しんでいる。幸い、慢性の腰痛にはなっていないが、何かに拍子に突然襲ってくる。腰痛が治ったと思ったから、昨年は久しぶりにイギリスの田舎に行き、素晴らしい夏休みを過ごしたが、その最後の二日間は腰痛に襲われ、また弱気に…

オリバー・ストーン監督「ウォール・ストリート」

87年に、乗っ取り屋ボエスキーをモデルに制作された秀作「ウォール街」の続編。リーマン事件をモデルにしたということで、楽しみにしていた。それなりの出来ではあるが、物足りなさは否めない映画。①映画の前半は、24日に書いた「リーマン・ショック・コ…

A.レボー「バーナード・マドフ事件」

リーマン問題の影に隠れてしまったが、マドフによる6兆円とも言われる金融詐欺事件は、現在の金融システムや現代アメリカ社会を考える上で、もっと注目されるべきだと思っている。ツンドクしてきた本書は、マドフ事件を取り上げた数少ない著作である。 本書…

A.ソーキン「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」

中断していたA.Sorkin "Too Big To Fail"を読み終わった。 リーマン・ショックの金融危機を丹念に実名で書き出した本であるから、面白くないはずがない。訴訟社会で実名を使って記述しているからには信憑度は高いはずで、よくここまで調べ上げたものである…

S.パタースン「ザ・クオンツ」

M.ルイス「世紀の空売り」が、これまであまり書かれることのなかったアメリカ金融業界の言われているほどの能力がなく、言われている以上に強欲で利己的な金融関係者の姿を描き出したことを高く評価したが、金融書としてはS.パタースン「ザ・クオンツ」…

マイケル・ルイス「世紀の空売り」

80年代半ば、証券化商品開発担当として投資銀行の聞き取り調査を行った。不思議だったことは、ほとんどの投資銀行の証券化商品開発責任者が元ソロモン・ブラザーズ勤務経験者であり、しかも品格にかける二流アメリカ人といった印象を持たされ、高度な数理…

何故に今、円高・株安なのか。

何故に今、円高・株安なのか。 円高による輸出環境悪化と説明される円高・株安の連鎖が止まらない。ドル、ユーロ、円の悪さ比べで、円が買われていると説明されるが、日本人投資家が外貨投資を減らし円に戻している部分がほとんどではないだろうか。経済状況…

野口先生、ここから如何されますか

敬愛する野口悠紀雄先生の最近の投資判断を6月3日に引用させていただいた。日本人投資家の中期的な懸念材料がインフレと円安であることは同感であるので、このまま単純な円預貯金中心のポートフォリオを永久に続けるわけにはいかないが、ここから如何すれば…

野口先生もそう言っておられるのに・・・

前回の「またもや円預貯金者の勝利」の続きです。 敬愛する野口悠紀雄先生が、「野村ジョイ」のインタビューで次のように言われていることを見つけた。Quote − いずれにしても、何らかの形で資産運用をしていくことは必要だといえますか。金融資産は何らかの…

またもや「円預貯金者」の勝利

大学で「証券投資分析」を教えたり、証券アナリスト協会の役員もしているので、またもや証券投資で損をしましたとは言いづらい。 「敗者の条件」という本があるが、投資市場の過半の取引は年金運用や投資信託といったプロが請け負っているので、市場平均はプ…

イスラム金融と金融工学

イスラム金融はほとんど知らない。金利が取れないから、リースのように物を貸したり、株式のように利益分配する形式を仮想するくだらない話だろうと思っているから、調べる意欲が湧いてこない。しかし、ある人が「金利を設定するには、借入人の将来の返済能…

「リーマン・ブラザーズと世界経済を殺したのは誰か」

日本人としては投資銀行の内幕を最も良く知っているはずの桂木さんが書いた本であるから、大いに期待して読ませていただいた。もっとギラギラした内実を聞くことを期待していたが、大半は別の人が書いたのではないかと思われるほど評論家的で、行儀が良すぎ…

「強欲は死なず」

「金融ゲームの実態を活写したフランスのベストセラー」という呼び声で読んでしまったが、読んだことを悔やんでいるし、時間とカネを返して欲しい。本書はまともな金融のインサイダーが書いた本ではないインチキ金融本である。小説だからインチキということ…

「サザエさんと株価の関係」

「サザエさんと株価の関係―行動ファイナンス入門」(吉野貴品、新潮新書)という本があります。ポイントを言えば、昭和44年から放映されている長寿アニメ「サザエさん」の視聴率で、景気が分かり、株価が分かるとしております。確かに、サザエさんの視聴率が…

「空飛ぶタイヤ」

WOWOWの関係者から好評の連続ドラマであると聞かされて、正月にDVDを観ることにした。原作も同名であるが、命名が悪く、子供向けアニメかと思っていたが、三菱自動車リコール問題を下敷きにした極めて硬派の社会派ドラマと知って驚いた。 志を失いかけている…

N.N.タレブ「まぐれ」

著者N.N.Taleb氏の名前は “Dynamic Hedging :Managing Vanilla and Exotic Options”(1997)を購入した時期から印象に残っている。知られたトレーダーではなかったし、有名な投資銀行で働いていたわけでもなかったが、エキゾチック・オプションのトレーデ…

ジャック・アタリ「金融危機後の世界」

アメリカの影響を強く受け過ぎた考え方に、フランス人が鋭く異論を聞かせてくれることがある。そんな期待感を持って、本書を読み始めた。 期待は見事に裏切られた。本書は、前回のブログで賞賛したジリアン・テッドの本の対極にある本である。つまり、テッド…

ジリアン・テット「愚者の黄金 大暴走を生んだ金融技術」

旧日債銀粉飾決算に関する経営者責任の判決で、最高裁が高裁へ差し戻したと報ぜられた。ほほ同様に見える旧日長銀の無罪判決と微妙に相異する根拠が議論されているが、両行の仕振の違いや大野木元長銀頭取の誠実さを個人的にも知る立場で言えば、相異する理…

金融技術軽視への警鐘

先日、ある金融専門誌の編集担当と話していて確信させられたが、最近の日本に於ける金融技術軽視の傾向には大変懸念させられる。この編集者に言わせれば、金融技術の論点は出尽くしており、この半可通以下の編集者も含めて理解は既に行きわたっており、金融…

映画産業と銀行産業

「サンシャイン・クリーニング」という映画を観に、木曜日の昼時、日比谷の映画館に行った。開演15分くらい前であったが、平日の映画館としては珍しく、切符を買う行列が出来ていた。日比谷の3スクリーンの東宝だから、行列が出来て当然かもしれないが、…