師走を前に

「明日から3連休。久し振りに仕事は一切いれず、人生を楽しんできます。」このように書きたいと思うが、残念ながらこれは私が最も頻繁に読んでいるブログの昨日の最後の文章である。所謂「出来る人」には、このように上手く区切りを作る人が多い。
 「寝ている間に、頭は事を整理するのである」と売れっ子脳科学者もこのような安直な割り切りを支持する。しかし、同じことは戸山何某という英文学者?が、三十年も前に彼のベストセラーの中で書いている。私が比較的良く理解している金融技術の分野でも、解らない事の方が遥かに多いわけで、脳科学の分野はもっと解らないことが多いはずで、この脳科学者さん、どこまで本物なのだろうと考えていたら、数年間の脱税を指摘された。可愛い顔で愛嬌もあるので、「忙しかった」で済ませてあげても良いようにも思うが、同時に、儲けたら税金を払う必要があり、キチンと申告しなければ、税務署が何か言ってくることは常識で、このような常識もない人物に、多くの人に人生や生き方を説いたり、いい加減な分析コメントを流し続ける機会を、影響力と信頼度の高い公器NHKが与え続けるべきではないとも思う。地味な研究を続ける脳科学者や実務家に気の毒である。
 しかし反対に、地味な研究者の間違いも少なくない。面識のある理財工学の権威者が、「金融工学は何をしてきたか」という新書を出され、読ませてもらったが、この本は理論分野しか知らない学者先生の誤解に満ちた内容で、悪書と言ってもよいかもしれない。金融工学の実務に、理論がそのまま利用されることはほとんどなくなった。寧ろ、もっともらしいが実用化できない理論がたくさん打ちだされ、実務の蛮行のカモフラージュに使われてきたといった方が真実に近い。この新書の出だしに、金融工学を基礎付けた学者の名前が列挙され、著者も含まれることを誇りに感じておられる様であるが、我々金融技術の現場に関係した人間に言わせれば、このように実務を知らない学者を軸に金融実務が動いていると考えるマスコミの理解から間違いを訂正しなければ、実像は見えてこないということである。この点で、FTのジリアン・テットの近著「愚者の黄金」は素晴らしい出来栄えである。
 気がつけば、師走一歩手前。馬齢一年がまた1つ重なってしまう。「病気?」と心配してくれる読者もおられるので、取り敢えず、元気に、ストレスを溜めつつ、思うようにならない人生を生きておりますことをご一報させていただきました。