「容疑者Xの献身」


暮れで忙しいこともあり、観るか観ないか迷っていたが、近所の映画館での上映が終わってしまうギリギリのタイミングで観た。映画ファイナンスの勉強のために沢山の映画を観ているが、本作は「有名原作+フジテレビ+東宝」という現在の日本映画の勝利の方程式を満たしているので、大失敗がない限り投資回収には問題ないはずであり、テレビの「ガリレオ」を観たからほぼ話の見当もついてしまうので、時間と金の無駄遣いになりそうなことも観に行くことを迷っていた理由であった。しかし、好評のヒットとなっていることや柴咲コウが出演していることから、最後のチャンスに観たわけである。
 昔付き合っていたFさんに柴咲コウさんの目が良く似ていてFさんの娘さんかもしれないと思っていること、私の独断で言えば、柴咲コウが出演する映画は話題作や評判の良い映画が多く、彼女の出演する映画に投融資しておけば、先ず損はしないはずであるという勝利の要因になっていると思われることから、注目している女優である。「GO」黄泉がえり」「着信アリ」「世界の中心で愛を叫ぶ」「メゾンド・ヒミコ」「県庁の星」などは佳作であり、「日本沈没」「どろろ」「舞妓Haaan!」「少林少女」などのくだらない作品に出演しても一応のヒットにはなっている。現在のカネと将来のカネの交換がファイナンスの本質であり、この本質に照らすと映画への投融資がリスク愛好型投資家以外には困難なファイナンスである現状が見えてくると、柴咲コウのような女優の起用は魔よけとしても意味がありそうである。
 映画そのものには失望した。松雪泰子演じる殺害者(「美人」であることが強調される役柄にはミスキャスト)を殺人から遮断するために無関係なホームレスを殺してしまうこと(殺害の記憶自体を消さねば意味がなく、説得力のないシナリオ)、出だしの関係のない実験シーン、現実感の薄い雪山登山等々、映画であることを意識し過ぎて無理やり膨らませたような部分がすべて失敗しているように思われた。テレビの「ガリレオ」の方が素直に楽しめた。つまり、原作が知的ゲームのような話の場合、3千万円ていどの制作費で1時間のテレビ・ドラマにする方が効果的で、無理に予算を膨らまして2時間の映画にして失敗しているような印象である。テレビ人間はテレビで活躍する方がベターであるという墓穴を自分で掘ったのではないだろうか。この映画は何故これほどの好評を得ているのであろうか。