あるイスラエル映画

 
イスラエルのジャズやダンスは世界的に高い評価を与えられており、なかなか良い映画も作られている。「迷子の警察音楽隊」は、東京国際映画祭でサクラグランプリを受賞した評判の高い作品で、やっと観ることが出来た。
敵対した隣国エジプトの警察音楽隊イスラエルで迷子になり、田舎に泊めてもらうことになるという脱力系コメディであるが、背景に解決不能とも思われる深刻な政治情勢があるだけに意味深い。物質的に豊かになったものの、目的や価値観を失い無力感が広まっている日本と、問題があまりに複雑で解決策が見出せないパレスティナ問題を抱え込んだイスラエルの無力感とは似て非なるものである。この映画のように、イスラエル人は無愛想でチャーミングではない。田舎には、この映画の舞台となったような人工的な戦略入植地が存在している。愚妻、娘との三人の小旅行で、エルサエレムを迂回しようとして迷子になり、パレスティナ地区に迷い込み緊張したことがあった。暗闇のなかで、国連PKOのインド兵に道を教えてもらい、この映画のような人為的で人の気配のない戦略入植地のホテルに逃げ込んだ。たくさんの猫がうろついているコーヘン兄弟の映画に出てきそうな奇妙なホテルだったことを覚えている。西欧の二枚舌外交で無理やり建国されたイスラエル。建国当初はイスラエル側がテロリストであり、エジプトとイスラエルは4回の中東戦争を戦った。このような背景から生み出されただけに、この脱力系コメディを高く評価したい。
 私の娘はイスラエルが誇るBatsheva Dance Companyのトップ・ダンサーだったが、イスラエル人と結婚してロンドンに住んでいる。岳父は二枚舌外交の張本人イギリスの外交官で、「国連PKOの父」と呼ばれ、長く中東問題も担当していた。私は、日本の経済成長の波に乗り、自分の予想を超えた体験をさせてもらい、その経験を若い世代に語るべく大学で教えているつもりである。
蛇足を言えば、イスラエルでもっとも売れている乗用車は、ダイハツでありスズキである。日本の輸出製造業はそこまでの努力をしており、その努力の上にこれまでの日本の繁栄があるはずである。日本人であることを理解しようとするなら、地の果てのようなイスラエルのことも知らねばならないはずである。