家族企業(ファミリービジネス)

 教えることは教えられることでもある。「日経ビジネス」の最新号が、「家族企業の底力」という特集をしている。ゼミ生の卒論に、「ファミリー企業の強さとその中に潜む課題」というのがあり、私の指導は「『ファミリービジネス』という映画があり、悪党の話だよ。」という心無いコメントから始まった。
彼女は社会人学生で、家族企業の一員であることが動機であったが、彼女の勉強が進むにしたがって、トヨタ自動車任天堂サントリー、海外ではウォルマート、マイクロ・ソフト、エルメスなど株式公開している企業まで含めた広義の家族企業の比率は予想以上に高いもので、日本やアメリカの上場企業の4割前後、欧州では非上場企業の比率が高いことから大企業に占めるファミリー企業の比率は更に上昇することになることが見えてきた。しかも、ファミリー企業の業績が非ファミリー企業のそれを凌駕する現象は各国共通で、その要因は、長期視点に立った経営、永続への強い執念、ステークホルダーとの長期関係の重視、創造的破壊の可能な社風などに求められるようである。
先ず単純化した原理論を言えば、家族企業は「ファミリー+奴隷」型か「(ファミリー+忠実な奴隷)+奴隷」の集団になるはずで、国の形態で言えばファミリー独裁国家である。家族企業の失敗例で指摘される「独裁経営で社員は従順であり企業風土は沈滞している」「法令順守や企業統治に問題が多い」などの原因はここに求められよう。この原理は組織が大きくなればなるほど希薄になるはずであり、「松下電産」は「パナソニック」に社名を変更することで、ファミリー企業からの脱皮を強調した。
家族企業の対極にある組織は、役所、株主の大半が機関投資家やパッシブ・インベスターである企業などで、国家形態で言えば、民主主義国家ということになろう。往々にして、このような非ファミリー企業が社員から成り上がった経営者の独裁体制になってしまう場合もあるが、永続的なファミリーによる支配とは意味合いが違う。民主主義は衆愚政治でもあり、役所の運営に代表されるように、非効率、無目的、法例遵守がすべての経営になりがちである。
早い話が、良く出来たファミリーに支配される家族企業はナチス・ドイツのように目的に対して効率的で、ダメな独裁者に支配された家族企業は北朝鮮のように暗く非効率な組織になってしまい、民主主義ないし衆愚支配企業が企業経営としてはその間に挟まれているということではないかと思われる。働く奴隷の立場で言えば、適当な報酬があり倒産しない前提が満たされれば、衆愚支配企業のほうが、支配ファミリーに気を使い、忠実な奴隷と仲間の奴隷を見極めなければならないファミリー企業より望ましい職場であるのではなかろうか。蛇足を言えば、民主主義社会で生活しているのは錯覚で、予想以上にファミリー企業つまり有産階級の支配が行き渡っているように思われる。麻生総理の時代であり、小林多喜二蟹工船」が売れるわけである。