農林中央金庫

 農林中金が、有価証券含み損1.5兆円の存在を背景に、1兆円の増資を発表した。農中は、農協系統金融機関の余剰資金約60兆円を運用しているが、うち36兆円を海外の投資運用に振り向けており、ファニメーなど米国住宅金融公社債券に3.5兆円、CDO(債務担保証券)に 2.4兆円、ABS(資産担保証券)の2.9兆円が含まれている。金融庁が発表した国内金融機関の9月末の証券化商品による実現損と評価損の合計が3.2兆円であったから、金融機能強化法の最大の狙いは農中の救済であると言われても仕方ないかもしれない。
 そして、負ければ賊軍と言われるように、「運用ノウハウが乏しいくせに投資銀行を気取った農中」「外人におだてられ自信過剰になった農中の失敗」「金融庁のチェックが働かない農水省所管にしていたことの誤り」等々の批判が堰を切ったように噴出している。
 しかしながら、私が直接・間接に理解している限り、日本の機関投資家としてのリスク管理体制はトップ・クラスであったと思う。確かに、ファニメーなどの米国住宅金融公社については、数年前から金利リスクを取りすぎているから警戒するようにとの情報が事情通の間には流れており、何故これほど巨額の債権を保有し続けたのだろうかといった疑問は残る。バブル期の生保同様に、東京から世界情勢は把握できると言った自信過剰もあったこととは思う。しかし、国内の余剰資金を誰かが海外投資に持ち出さない限り、再び国内の資産バブルを繰り返し、不良資産化してしまう無駄な公共投資の山を築いてしまうはずである。機関投資家が海外投資どころか、国内株式投資すら避けているから日本の株価は理論値を下回る水準にまで下落し、優良企業の30%の持分を外国人投資家に保有されてしまったわけである。この観点から見ると、今回の農中の失敗は、農中がガンバッテいただけに、極めて残念である。勿論、戦略や定見を持たず、国債や短期運用ばかりやってきた無能な多くの機関投資家や金融機関には、農中を批判する資格はない。更に農中を弁護すれば、アメリカの強欲資本主義がここまで堕落した性悪なシステムに成り下がっていたことを、世界の誰も見抜きストップさせることが出来なかったということが今回の金融危機の本質であり、農中が日本を代表する(自信過剰で間向けな)被害者になったということだと考える。なますに懲りて羹を吹くべきではない。全通貨に対して円高の今からが海外投資の絶好のチャンスなのではなかろうか?海外投資は、30年前から国の政策として考えられるべき問題であったはずである。