映画はやっぱり素晴らしい

 多少の必要に迫られ、DVD7本をほぼ連続して観ることになった。予め作品名をリストすると、「その木戸を通って」、「パリ、テキサス」、「風花」、「アキレスと亀」、「モンゴル」、「トンマッコルへようこそ」、「新・仁義なき戦い」で、私が良いと評価する順序に並べてみたが、「その木戸を通って」は断然トップで、「新・仁義なき戦い」は大差のビリで、その間の5作は気分で順序が変化する程度の違いである。すべての作品が以前から観たいと思っていたものであり、精神分裂のような選択ではあるが、さすがの阪本順治監督も名作シリーズには歯が立たなかった感じの「新・仁義なき戦い」以外は観てよかったと思っている。
「その木戸を通って」は、美しく無駄のない画面、多くを語らないストーリー、悪人の気配すらない登場人物等々、映画の常識には納まらない抒情詩のような映像美で、独自のカテゴリーの映画と感じられた。市川昆監督、山本周五郎原作という権威者二人の作品でなかった場合、これだけの評判は得られないかもしれないが、映画を観れば、独自の世界を作り出していることは自明である。
パリ、テキサス」も「風花」も所謂ロード・ムービーで、しかも親子の問題、家庭と個人の問題を取り上げている秀作。個人主義を貫くか、家庭や子供のために個人主義は犠牲にすべきかの問題には、私自身悩まされてきた。欧米先進国では前者が主流で、私を含め日本は後者が多数派で、国際結婚をして40年近く、常にこの緊張感を迫られてきた。
 「パリ、テキサス」のヴェンダース監督、主演女優キンスキーの実際の私生活は、個人主義の典型のように見受けられることを考えると、本作のストーリーにもそれほど抵抗はないのであろうが、この映画のように、親の責任を果たせない親のもとから、映画のような素直で素晴らしい子供が育ってくるのであろうか?欧米の離婚が蔓延した個人主義社会は、壮大な実験の過程にあり、荒んだ社会という壮大な悲劇を生み出す結果になっているように思われてならない。これに対し、北海道を舞台にした「風花」は、じめじめと煮え切らない二人が、結局、子供の存在から生きていく力をもらうといった日本人には同感し易いストーリー。同じような材料ではありながら、捉え方にはテキサスと北海道程度の差があるが、ともに否定しきれない。
アキレスと亀」。北野映画には、私の理解を超えているものが多いが、「HANA−BI」と並び理解出来好きになれた北野映画。前半はややテンポが遅く、理解出来る映画を作ると北野監督も凡庸だと思っていたが、後半の樋口・たけし時代に入ると、ひねりが効いて俄然面白くなり、北野監督の才能を再認識させられた。
「モンゴル」。映像が大変美しい、戦闘場面にも迫力がある、国際映画での浅野忠信主演も嬉しい。だが、ラブ・ストーリーを強調したから話に無理がある、全体の整合性に乏しい、これだけカネを使わないでも表現出来そう等々の問題点も感じた。それでも、あまりに美しい場面が多いこと、日本人主演の国際合作、想像を超えるだろう制作の苦労等々に敬意を表し、楽しむつもりで観たので、予想以上に楽しめた。
トンマッコルへようこそ」。南北朝鮮連合軍が、アメリカ軍と戦うシナリオは韓国の統一願望と反米感情を反映したものであろうが、アメリカ「帝国主義」の経済力が急速に失われ、外国資本と技術をうまうまと利用した「非民主主義国家」中国が影響力と軍事力を増している現在の情勢では、大変危険なプロパガンダではなかろうか。しかも、最近は韓国映画特有のアクションが、バタバタ・ドタドタと小うるさく思われてきており、昔ほど韓国映画を楽しむことが出来なくなってしまった。
 何はともあれ、わずか15時間程度で、このくらいの多様な追体験と考える問題を提供してくれる映画はやっぱり素晴らしい。