映画産業と銀行産業

 「サンシャイン・クリーニング」という映画を観に、木曜日の昼時、日比谷の映画館に行った。開演15分くらい前であったが、平日の映画館としては珍しく、切符を買う行列が出来ていた。日比谷の3スクリーンの東宝だから、行列が出来て当然かもしれないが、15人ほどの行列に並んでいたのは、私を含めおそらく全てが入場料の安いシニアー・シチズンであった。「サンシャイン・クリーニング」は評判の良い米国独立系映画で、狙いの顧客は「負け犬」の女性観客であろうが、東京地区では3館でしか観ることが出来ないにも拘わらず、木曜日12時10分からの興行収入は、1000円×50人=5万円程度に過ぎないわけである。自分のことを棚上げにして言えば、上映が始まるまでの雰囲気は「若手向けの養老院」で、映画が素晴らしかっただけに、映画産業の置かれた状況を象徴するようで、淋しい限りであった。
 これに対して大手銀行の支店では、待たされている顧客がたくさんいるし、ATMにも待ち行列があることが普通で、商売繁盛のように見受けられる。しかしながら、ざっくり言えば、たくさん居られる個人顧客の80%との取引は赤字で、伝統的銀行業務に携わっている銀行員の大半は、儲からない仕事ばかりに忙しく、いつまでこのような状態で生き延び続けることが可能であるのか不安に思っているはずである。
 両産業に共通することは、情報通信革命、価値観の多様化の時代の流れの中で、顧客を奪われる側にありながら、根本的な対応策が打ち出しえないでいること、そして其の事がサービスの大幅な供給過剰を招き、生存競争が激化していることにある。これは、映画の後で昼飯を食べた外食産業にも言えることで、賃金カットで何とか生き延びることを続けても、次の展望は開けてこない。
 頭の悪い奴には、何でも解決策のない難問に見えてしまうが、時代変化に対応出来ない産業はどこまで落ちていくことになるのであろうか。銀行産業のプロであり、映画産業のプロを目指しているつもりの愚者には、どのように貢献することが可能なのであろうか。