インチキな連中

 ベスト・セラーを続けているという知的創造力開発に関する本を読んだ。著者x氏は有名国立大学の名誉教授であるから、それほどいい加減な人ではないはずであるが、学者の書いた本にしては、原典の引用とか参考文献がほとんど明示されていないことが気になった。
 私の知人でノーベル経済学賞を受賞しているアメリカの学者を筆頭に、知的財産権の主張がいきわたっているアメリカの学者の著作は原典の明示や引用が多く、本当に読みづらい。こんなに細かく引用するのであれば、「この漢字は5歳の時に、母親から教えてもらった」とか「この話は、7歳の時に祖父から始めて聞いたものである」といったことまで書くことが必要になってしまいそうである。つまり、我々の知識の大半は過去に誰かから教えてもらったものであるから、アメリカ的な潔癖主義は馬鹿げているように思われる。
 しかしながら、英文学を研究されているはずのx氏が、「人間の頭は朝が一番創造的である」とか「人間の頭は寝ている間に混乱を整理する」言われると、その分野の素人である私も感覚的には同感できるが、科学的にどのように説明し、証明するかは分からないので、英文学を勉強されている人が何を根拠にそんなことを言われるのか気になってしまう。素人の直感ではなく、少なくもしかるべき脳科学者の意見や論文を確認すべきである。
 また、x氏は英文学で博士号をお持ちではないようであるし、その分野での専門業績も多くはないようである。x氏に言わせれば、「厳密な原典引用の要求や狭い専門分野での細分化された業績の追及は、戦後のアメリカ追随の弊害である」ことになり、この意見に同感しなくもないが、学者を目指すのであれば、先ず博士号や専門分野の業績を積上げなさいという方が正論であろう。私の知人の法学士に過ぎない先生も「人間の頭は朝が一番創造的である」といった内容の本をたくさん出版されている。自分の専門分野でほとんど業績のない学者が、他の分野では常識的な断定をされていることは、事の真贋の区別を無視した不遜で無責任な行動であると言わざるを得ない。細かい研究を黙々と続けておられる本物の研究者に対して、大変失礼である。
 このようなインチキな連中が、テレビのコメントや素人の常識に追従したベストセラー本で、世の中を混乱させているのが、日本の現状である。