官僚達の夏

 危機感を持ち始めたからか、力の入ったテレビ・ドラマが多くなったような気がする。城山三郎原作の「官僚達の夏」もその一つで、原作以上に古臭い印象を与える国士的官僚の活躍を肯定的に強調して描いている。「官僚支配から国民主権に」と言っている民主党の大勝利を見越して、小沢一郎独裁政治より官僚政治の方がマシであると主張しているのであろうか。
 このドラマで強調される国士的使命感を感じて公務員試験に合格したが、結局、労働条件が霞ヶ関よりベターで当時は民間の通産省と呼ばれていた銀行に勤務した私の経験から言えば、本作は半分程度は真実であり、半分は奇麗事のウソであるように思う。
 先ず、キャリヤー官僚を中心に相当数の官僚が本気で働いてきたこと、いまも働いていることは認められるべきである。少なくも拝金主義の起業家や目立ちたがりの俄か政治家・知事を崇拝するより、官僚を信じかつ彼らをモニターすることの方が遥かにこの国は良くなったし、良くなるであろう。官僚の腐敗が始まったのは、田中金権政治以降で、その原因は官僚ではなく、金権政治家達にある。民間の通産省と呼ばれた銀行でも、昭和40年位までは国士的使命感が存在していたが、日本が豊かになり、金融機関の生存競争が激しくなるにつれて、徐々に利益至上主義とノルマによる従業員の隷属化が見られる様になった。同じような変化が官庁にもおこり、社会保険庁や厚生省のように人材の質が劣る官庁から、これらの腐敗が加速していったように思われる。しかし、それでも、金権政治家の腐敗ほどひどいものではなかった。
 TBSが「官僚達の夏」をこの時点で強調するのは、悪く言われすぎている中央官庁と官僚を擁護する計算があるものと信じたい。私の経験で言えば、政治家より官僚の方が信じられる人物ははるかに多いはずだからである。多分、生涯を権力の中枢で過ごした闇将軍小沢一郎独裁政治より官僚主義の方がマシであるはずである。