「きみに読む物語(The Notebook)」

 時間があれば、観ようと思って沢山借りてきた正月用DVDの1枚である。アメリカのベストセラー本の映画化作品で、日本でもヒットしたので、名前だけは覚えていた。
 「私はどこにでもいる平凡な人生を送ってきた平凡な男だ」という最初のナレーションが身に染む歳になっており、先ず引き込まれた。その内、AllieがNew YorkのSarah Lawrence Collegeに進学する話になり、他人事とは思われなくなってきた。アメリカ人の愚妻もSarah Lawrence Collegeを卒業している。我々の結婚は、ヴェトナム戦争中の1971年であるから、アメリカはこの映画の40年代とは大きく変化していたが、私は敗戦国日本の金貸しの丁稚、愚妻は落ちぶれたとは言えアメリカ独立宣言に名前を残す家系であった。したがって、この映画のようにドラマチックな人生になってもオカシクはなかったはずである。
 しかし、その後の私の人生はさいわいに平凡なものであった。然程の苦労なく来れたのは、国連職員であった岳父周辺のリベラルな考え方と人間関係、敗戦国日本の奇跡の復活のおかげであると思っている。越し方はそうであっても、これからもそうである保証にはならないし、この映画ほどドラマチックではないものの、生きていく緊張感は感じたし、感じている。子供たちの結婚を通じて多民族家族化が加速したことや、人生のステップが思うように切れていないことから、生きていく緊張感はやや高まってきているようにも感じている。意見が合わないことも少なくない愚妻との電話で、「いろいろ問題があっても、孫6人に恵まれた良い人生」ということでは合意したが、仮に、本作のように愚妻が認知症になった場合、この映画のように安らかに人生を終えることは、弱虫日本人の私には荷が重過ぎるように思われてならない。
 ストーリーや映画の展開は平板で、特に傑作とは思わないが、身につまされる映画ではある。人生の追体験には、映画は素晴らしい手段であることを再認識させられた。