「空飛ぶタイヤ」

 WOWOWの関係者から好評の連続ドラマであると聞かされて、正月にDVDを観ることにした。原作も同名であるが、命名が悪く、子供向けアニメかと思っていたが、三菱自動車リコール問題を下敷きにした極めて硬派の社会派ドラマと知って驚いた。
 志を失いかけている日本の大企業を対象にしているという観点からは、JALをモデルにした映画「沈まぬ太陽」と類似していると言えるが、結論的に言えば、映像作品としては本作の方が「沈まぬ太陽」より上出来であると考える。理由は、原作者の池井戸潤氏が銀行の実務経験者であることからか、山崎豊子原作の「沈まぬ太陽」に比べて、細部まで自信を持って描いているように思われること、主演の仲村トオルは声を張り上げ過ぎたり、バタバタした演技で頂けないが、それ以外の出演者たちの地味に押さえ込んだ演技が事の迫真性を増しているように感じられた。「嘘がうまい銀行マンほど出世する」といった寸言も、元銀行マンの私には作り話とは聞こえない。
 面白いことに、ドラマでは雑誌記者の榎本を女性としたことで、勇気ある善玉(雑誌記者、内部告発者、主役と告発協力者の妻等)のほとんどが魅力的な女性で、男どもは卑劣であったり、オロオロ・バタバタするタイプが多いという構成にしたことである。出演女優たちの魅力と国村準の好演が本作を楽しめる社会派ドラマとして成功させているように思われるから、監督やプロデューサーがそこまで計算したのであれば、見事である。
 WOWOWそしてNHKがこのような社会派ドラマで問題提起をし、日本の閉塞感を打開しようとしているかに思われることには救いを感じるが、むしろ本当の問題は強力なメディアの特権を与えられながら、視聴率至上主義で大衆の白痴化を加速している民放にあるのであろう。メディア革命が進行する中で、我々大衆が賢い消費者になる必要があるということである。