映画雑感

 やらなければならないことがあるので、映画とDVDを遠ざけるようとしているが、DVDを借り始めてしまうと、根が映画好きなだけに返却・借入の悪循環が始まる。このところ観たDVDのいくつかの寸評です。

(1)「活きる」
 チャン・イーモア監督、コン・リー主演、1994年制作の中国映画。
イスラエル映画戦場でワルツを」と前後して観ただけに、本作の上手さが際立つ。
講壇マルキストの先生方のお教えによれば、中国は、共産主義の理想郷を建設しているはずだったので、毛沢東を読み、1971年には中国語まで習った。本作は、私が思っていたように近代中国の右往左往の歴史を描いて観せてくれた。コン・リーが可愛かったことからか、価値観がくるくると大変化した近代中国を活き抜いた中国人のシタタカサと明るさの理由、最近の中国からの留学生が「共産主義宣言」も「実践論・矛盾論」も「毛沢東語録」も、勿論「資本論」も読んでいない理由も解ったような気がする映画である。
 また、チャン・イーモウが大変気を使って作ってはいるが、本作を共産党政府が公開したがらない理由も解ったような気がする。大連から来た近くのラーメン屋のオヤジは、「毛沢東金正日は同類である」とのことだった。
 こんな激動を活き抜いた中国人と平和ボケの日本人では、残念ながら勝負になるまい。

(2)「戦場でワルツを
 アカデミー賞外国語部門を「おくりびと」と競った作品。前評判はこちらの方が高かった。
 過酷な状況による被害者について、軽々しくコメントすることは出来ない。パレスティナ人もユダヤ人も、レバノンのクリスチャンも歴史と状況の被害者である。日本軍国主義の加害者であり、敗戦の被害者でもあり、その後の幸運な歴史と状況に平和ボケしている幸運な我々が簡単に解ったようなことを言うべきではないだろう。Lucky us!
 南京でもアフガニスタンでも、イラクでも同じようなことが行われた。イスラエル人がレバノン占領をこの映画のように描き出すことは悪くない。あまりに過酷な経験であり、歴史であったのであろう。自分らの問題で言えば、沖縄は幸運なのか不幸なのか?
 しかし、映画の出来としては傑作とは言えず、正直、失望した。やはり、「おくりびと」の方が映画としてはベターである。
 更に、蛇足を言えば、私の娘はイスラエル人と結婚し、可愛い孫が二人いる。God bless them!

(3)「イントゥ・ザ・ワイルド」 
美しく、ロマンチックな映画である。
私の長男はイギリスのLSE、次男はアメリカのColumbiaと、本作の舞台になるエモリー大学以上に名門の大学を卒業し、長男はブルース・ギターリスト、次男は映画監督になると言い出した。長男には私が猛反対し、ICUに戻し、修士卒業後大手広告代理店勤務で子供3人、住宅ローン返済に追われ、所帯染みたおっさんになってきている。これで良かったのかどうかは解らない。次男は米国学アカデミー賞で金賞を受賞したが、未だ映画監督の半玉でしかないので、親を大変心配させている。
 妾腹でありながら、東大法学部を卒業し立派な労働弁護士になった知人がいる。正妻でなかろうと本当の両親に育てられ、一流大学を卒業した途端、アラスカでノタレ死ぬ身勝手で甘ったれた生き方など絶対に認められない。私も学生の頃は、講壇マルキストの無責任な先生どもの犠牲になりかかった。不健康な迷い道は、真面目な若者が避けては通れない道なのかもしれないが、本作のようにそれを美化し過ぎる作品は大いに問題である。真面目な若者を利用したショーン・ペンが「マンマと世間を乗せる事に成功したわい」と後ろを向いてホクソエンでいるように思えてならない。親にならないと親の苦労は解らない。若者達よ、道を誤らないで下さい。

(4)「クヒオ大佐
可笑しくて やがて哀しき 映画かな。
邦画も捨てたものではない。