イギリスの夏

 日本に住む孫二人を連れて、久方ぶりに女房のイギリスの田舎に行って来た。ロンドンに住んでいるので未だ会ったことが無かった1歳の孫を含めて、9歳を頭に5人の孫と2週間強いっしょに生活できたので、将に至福の夏休みであった。女房の何代か前の財を成したアメリカ人が引退するために捜した「サセックスの真珠」と呼ばれる村にあり、相続税などの負担から既に三分の二は売却してしまっているが、茅葺の家が多数派の中世からの古い村、緑に囲まれた田舎で、毎日セーターが必要になるほど涼しかった。日課にした犬の散歩で近所の散歩道や田園を牛や白鳥、雉などを見ながら散歩するだけで、簡単に2時間が過ぎてしまい、家庭菜園で取れた形の悪い野菜を中心とする手作り料理の毎日で、このために私の人生が存在したと思うことで思うようにならなかった人生の救いを感じることが出来るような日々であった。
 歩き過ぎがたたったのか、最後の二日は腰痛を感じ始め、満席のエコノミー・クラスでの孫の面倒見もあり、寝ずに11時間耐えたこともあってか、昨日からは酷い腰痛に耐えながら、家の中でも汗が出る日本の我が家での生活が始まっている。天国に一番近い生活から地獄に近い生活に戻ったようにも思われるが、天国には天国の問題があり、地獄にも良い点が少なくない。天国には、BEEではなくWASPの襲撃や孫の毛虱の問題があったのに対して、地獄にはEメール1本で配達してくれるスーパーマーケット、反応の早いインターネットやとても覚えきれないチャンネル数のケーブルTVがある。法定老人年数になっている身としては、「イギリスの夏+日本の冬」を基本として生活出来れば望ましい様に思われるが、そのためにはこの忌々しい腰痛を何とかしなくてはならないし、自費でビジネス・クラスに乗れるような工夫やカネをドブに捨てるようなイギリスの庭の手入れ費用の合理化が必要になってくる。
 どなたかイギリスについての本物のエッセイを安い稿料でよいから書かせてくれないだろうか。英語も不満足な短期旅行者が沢山のイギリス・エッセイを出版したり、環状交差点ROUNDABOUTを詳述するとベストセラーになった日本の水準を考えると、女房がイギリス人であるだけでなく、岳父がナイト位を与えられ、スコットランド王家の末裔を含む沢山の知人がおり、長男と長女がイギリスで教育を受け、外国人の評価では日本のトップ・バンカーと言われた私の方が多少はマシなイギリス論が書けるように思ってはいる。まあ、本物が損をする今の日本では無理なような気もしているが・・・