福島原発事故

 海外にいる友人から、「福島原発事故チェルノブイリ級の被害をもたらし、今後100年は東京地区に住むことが出来なくなってしまうような可能性があるのだろうか?もしそうであるとすると、給水作業などの対応策のペースが遅すぎるのではないか。自衛隊員、消防士などは身を捨てて国民を守るべき職業であり、現場を熟知する東電職員も含め、身を捨てて甚大な被害を食い止めようとしているように見えないが、如何だろうか?」という質問をもらってうまく回答できないでいる。

 焦燥感を感じる原因は、テレビで報道される現状や専門家の分析が最悪シナリオ、当面必要な緊急処置とその効果などの重要な説明をせず、矮小な現象や数値ばかりを報道しているように思われることにある。自分が責任を被らないことを最優先にした官僚、民僚的な説明、素人の俄か勉強によるニュース・ショウ的なコメントが多すぎる。また、上空はるか高くからのヘリコプターによる水撒き、デモ隊に水平放水する機動隊の放水車の使用等々、膨大な人が放射線障害の犠牲になり、東京が廃墟になる可能性を持った危機への緊急対応策を本気でやっているようには思われない。従って、楽観して良いとはずだと思っているし、仮に東京が廃墟になり、膨大な人が放射能障害に苦しむ可能性があるのであれば、ヘリコプターを原子炉上空に停止し、昼夜を問わず海水を散布するであろうし、最新鋭の消防庁の消防車で最前線で昼夜を問わず散水するはずだと思っている。

 私は大学教授のような専門家で大局的な判断力を持った人が少ないことを知っている。専門研究とは、原子炉合金の研究、常温核融合問題等々だけを何十年もやり続けることであることが多く、原子力の専門家であっても今次の危機の全体像の把握と緊急対応策を述べられる人物は多くない。また、大学や研究の世界は嫉妬心や妬みが渦を巻いた序列社会で、テレビのコメンテイターが必ずしも適任者でないことも少なくない。
 このような状況で、大阪大学の山口彰教授が初めてNHK行われた解説が私の直感にあっており、この危機の全体像を把握しているように思われ、これを聞いてやや安心した。むしろ、そうであって欲しいと思っているといった方が良いのだろう。
 第一のポイントは、チェルノブイリ原発福島原発は構造がまったく異なり、放射性物質を閉じ込める能力は福島原発がはるかに優れていること。確かに、チェルノブイリ原発事故の時に、練炭のように穴のある黒鉛電極にペリコプターが散水している映像をみて、こんな無様な原発もあるのだと思った記憶がある。
 第二に、チェルノブイリ原発スリーマイル島も運転中に事故が発生したが、数は多いが福島の場合は休止中ないし使用済み燃料である。構造が近いスリーマイル島の場合、オペミスによる冷却材不足が炉心融解を起こしたが、冷却材の注入により大事故にならずに終息した。軽水炉原発の冷却材は普通の水であり、山口教授の言われるように、取り合えず多量の水を注入し続けることで緊急事態は回避できるように思われる。その後で、恒常的な冷却機能回復すれば良い様に思われる。

 仮に、事故の大局観が以上のようなものなのであれば、自衛隊員、消防士といった身を捨てて国民を守るべき職業の人、現場を熟知する東電職員も含め、身を捨てて注水してくれれば良いことになるのではなかろうか。触れない方が良い論点であろうし、中性脂肪が溜まった腰痛持ちの老人から言われたくないということではあろうが、最悪のシナリオが東京全滅といったチェルノブイリ以上の被害になることが予想されるのであれば、救われる人命VS犠牲となる人命、あるいは戦場、火災現場や原発のリスクが織り込まれた職業の人々の緊急事態への対応義務を冷静に考えなければいけない時期のように思われる。