NHKのど自慢大会

 昨晩NHKが放映した被災地区の「のど自慢大会」参加者のドキュメンタリーには、いたく感動させられた。若い頃は、「NHKのど自慢」は、ダサくて洗練されていない後進国番組の代表のように思えて、相撲中継と並びいつまで放映し続けるつもりなのかと思ったものである。しかし、海外生活を経て年を重ねるに従い、この番組に日本人の無邪気な人の良さを見出すようになり、たまにしか見ることはないが、末永く続いて欲しい番組のように思われてきている。
 参加者一人一人が楽でない人生を引きずってはいるが、無邪気に楽しげに自己表現することに着目して、99年に井筒和幸監督が「のど自慢」という映画を制作しているが、着眼点は良いものの大変間延びしたしまりのない映画だったように記憶している。これに対して、昨晩のNHKドキュメンタリーは、被災地からの参加者が引きずっているそれぞれの重く悲しい人生を切々と静かに切り出し、「のど自慢大会」程度のことですら、癒しになり、救いになる様に胸を打たれた。番組が取り上げた方々ほどの悲しみを乗り越えた経験のない私には、どのような言葉を発すべきなのか解らない。私は、彼らほど悲しみに強く対処出来るようには思われない。今回の大震災被害の広がりの大きさと深さを再確認させられた。(余談ではあるが、地盤の悪い拙宅も外壁にヒビが入り、結構な修理工事を終えたところで、被災者の末席に入れていただけるのかもしれない)

 このようなテレビ番組を見せられてしまうと、金を払ってまで映画館に足を運ぶ気持ちが湧いてこない。若干脱線してしまうが、先日CATVで小栗康平監督の「泥の河」を観ることが出来た。かねて名作と知られているが、貸しビデオが存在せず、「やっと」観る事が出来たというべきであろう。期待が大き過ぎたことや子供が主役であることもあってか、期待以上の名画とまでは言わないが、姉弟と母親を乗せた廓舟が引き舟に引かれて静かにトンネルに消えて行くラスト・シーンはやはり邦画史に残る名場面であると思う。

 「のど自慢大会」のNHKドキュメンタリーや「泥の河」に感動してしまうのは、被災者や世の中の弱者が多くを語らずに同様の弱者の痛みをおもんばかる点にあるように思う。「のど自慢大会」が番組表から消える時は、この島国から弱者が弱者の痛みをおもんばかる美徳が消え去る時なのではないだろうか。