フィクサー

kashiwaoak2008-05-20

 本年度アカデミー作品賞など多数の部門で候補作であり、社会派スリラーという私の好きな題材であるから、遅ればせながら「フィクサー」を観に行った。大変面白かった。
アカデミー作品賞を受賞した「ノーカントリー」、同候補作「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」が荒削りで素人っぽい感じが残るのに対して、本作は計算され尽くした将にプロの作品のように感じられた。脚本家が自信を持って監督した作品らしく、緻密な整合性と計算された構成になっており、ほとんど無駄な部分を感じることがなかった。アメリカの大法律事務所やそこに働く人々、大企業に生きることの厳しさ等々も十分に説得的であった。ビジネスの非人間的な厳しさに、崩れ行くやり手弁護士や殺人にまで手を染めることになる女性法務部長の姿に、人間の弱さを滲ませている。(現実には、彼らほど優秀でもなく、彼らほどギリギリまで仕事に追い詰められない連中が、黒塗りの社用車に乗り偉そうな顔をしているわけであるが・・・)
ノーカントリー」が毒々しく強い印象を残すのに対して、本作はあまりにスマートに作られて個性を欠く印象になったことが、作品賞で敗れた理由ではないだろうか。また、Yahoo映画の評価を見ていて気が付くのは、本作があまりに緻密に計算され、理解に一定のレベルで背景を理解出来る知識を要求する結果、理解出来ないとか退屈だといった誤解が生まれているようで、良く出来てはいるが、やや大衆性に欠ける点が商業映画としての問題点かもしれない。
連休向け社会派映画として「相棒」と比較してみると、映画の完成度は大差で本作に軍配があがると思うが、「相棒」の方が大衆受けする要素が多く、興行成績は「相棒」に大きく水を空けられている。しかし、アメリカが面白い社会派スリラー・エンタテインメントを作り出す力が残っていることを示した功績はあると思われる。
{映画消費者としては、面白かったから5点の満点。映画投資家としては、やや大衆性に欠ける点から3.5点。}