貯蓄から投資へ(その3)

1500兆円の金融資産は幻想である
しばしば、「日本には約1500兆円の金融資産がある」と言われる。この数字は、国の貸借対照表とも言うべき「金融資産負債残高表」の「家計」部門の資産額を指している。若干古いが手元にある「金融経済統計月報」(日本銀行)によれば、2004年末で、「家計」部門の資産総額は1425兆円で、この内788兆円が「現金・預金」であり、この比率が先進国では高いことが「貯蓄から投資へ」と言われる所以である。
しかしながら、「家計」部門は、住宅ローン等の負債として326兆円の借入残高があり、これを相殺したネットの「現金・預金」は、462兆円に減少する。更に、「家計」部門の「現金・預金」には個人企業の個人名義の事業資金が含まれている。正確な推定はないが、150兆円程度が事業性資金と言われており、これを控除すると、312兆円程度が純粋の家計部門の現金・預金となる。これに対して、驚くなかれ、「一般政府部門」には650兆円の国債・財融債等の発行残高が積みあがっており、「家計」のネットの「現金・預金」をすべて国債の返済に充てたとしても完済には遠く及ばない計算となる。家計部門では「現金・預金」に次いで残高の大きい資産は、「保険・年金準備金」の376兆円で、これは全額が「金融機関」部門に預けられている。銀行や保険会社などの「金融機関」は512兆円を国債・財融債の購入に当てており、「家計」のネットの金融資産の「現金・預金」312兆円及び「保険・年金準備金」376兆円、これに法人預金195兆円を加えても、その60%近くが既に金融機関経由で「国債・財融債」に使われている計算となる。つまり、本当に貯蓄から投資へのシフトが起これば、国債が弾き出されることになる。国債が良質の資産に見合っているのであれば問題ないが、長年にわたり土建国家と非効率な行政の無駄を続けてきたツケの重さに改めて驚かされる。また、国の政策として有効な投資策を考えるのであれば、啓蒙すべきは個人ではなく、プロでありながら「国債・財融債」を買い続けている金融機関であることに気づくべきである。