サブプライム・ローン問題(その2)

サブプライム・ローン問題は、現在の金融システムと金融理論が陥っている課題を象徴する現象の一つなので、5月4日に引き続き(その2)を纏めたい。
 最近、証券化商品などで実際の取引が少ないために時価を算出しにくい高リスク資産を「レベル3」の資産と呼び始め、米国の新しい会計基準では2007年12月以降の決算でその開示が義務付けられた。前回申し上げたように、限られた人間しか将来のキャッシュ・フローの現在価値(=理論時価)を理解することが出来ない取引は、証券化取引やデリバティブ取引の発達とともに1980年代から急増した。しかるに、経済学者、金融や会計のプロ達の大多数は、そのような取引は自分達には理解不能であると告白せずに、30年が経過した。それらの多数派が、やっと自分たちの理解を超える取引が行われていることを公式に認めたのが、「レベル3」資産概念の導入であると言ってもよい。
 個人が住宅ローンを借りて住宅を購入した場合を想定すれば容易に理解できるが、取得原価主義の会計情報は極めて不十分で、現在の財務状況を把握するには時価評価による方がはるかに明確である。つまり、5千万円の借り入れで、5千万円の住宅を購入したと考えると、住宅の時価変化は極めて重要で、時価8千万円への値上がりと2千万円に値下がりしてしまうのとでは、天国と地獄の違いがある。(金利状況により借入金の時価も変動するのであるが、議論を複雑にしすぎないために、ここでは負債の時価変動には触れない。)実は、高等数学やコンピューターを駆使した金融工学の作業の大部分がこの理論現在価値(=完全に論理的市場であれば時価に一致するはず)の算定作業なのである。そして、驚くなかれ、金融技術革命開始から30年近く経過した今やっと、市場取引が活発な商品を「レベル1」、金利スワップなど理論価値を比較的計算しやすい資産を「レベル2」、そしてサブプライム・ローンのCDOやLBOなど理論時価の客観的算定が困難な資産を「レベル3」として開示するということになったわけである。
 しかし、話はここで終わらない。シティグループ等米国3大銀行だけで、「レベル3」資産が30兆円あると言われる。ここで質問になるが、株式時価は企業時価を反映したものであるとすると、「レベル3」資産、つまり客観的時価把握が困難な資産を多量に抱えた企業の株式時価推定は、「レベル3」以上に難しいはずで、株式時価評価は「レベル4」とか「レベル5」の問題になるはずである。時価が正確に把握できないものが何故広範に売買されているのであろうか?私はこれを「株価のパラドックス」と呼んでいる。(次回に続く)