「押井守」の実像は何か

 
 
 映画産業を輸出産業にすることが出来るとすれば、実写映画よりアニメの方が可能性が高い。宮崎アニメは、期待されているよりは低いものの、既に一定の輸出力がある。スピロバーグやキャメロン、そして「マトリックス」に影響を与え、海外での評判も高い押井守作品の可能性を考えてみた。
 映画の勉強に力を入れ始めてから、観た映画の記録としてある映画サイトに寸評を書き残すことにしている。押井アニメは、07年11月の「Ghost in the Shell 攻殻機動隊」が最初である。「アニメは嫌いだが、これは凄い映画だと言わざるを得ない。話はよくわからないが、とにかく映像の迫力と雰囲気には引き込まれてしまう。国際的に評価された理由が理解できたが、それにしても、話の内容はほとんど理解できない。」と寸評している。
 次いで、「立喰師列伝」を観て、「言葉の使い方と流れが大変素晴らしく、これは近代的講談で、したがって絵はあの程度でよい。たかだか茶を飲むことを「茶道」にする連中がいるわけだから、「立ち食い」の薀蓄を極め、歴史を語ることは当然可能であり、それに成功している。バカバカしいことを尤もらしく行い、語るのが、人生であり、その集合としての歴史だと言っているようにも思われる。」と評価しているが、「真・女立喰師列伝」には失望して、「押井作品には期待するものがあるだけに、金の掛からない美人女優を使い、仲間内で遊び半分に作ったような作品は観たくなかった。黒澤や宮崎のような巨匠には、失敗作はあっても手を抜いた作品はなかったはず。」としている。
 最高傑作と言われる「イノセンス」については、「「GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊」は理解できないことが多すぎたが、本作は概念説明が先ず15分あるという異例の構成から、上手く理解出来たように思う。「講釈師、見てきたような嘘をつき」と言うが、本作や「立食師列伝」と言った理解可能な押井作品は、言葉の妙ということから、講談の系譜にあるように思われる。宮崎アニメがコンスタントに85点とするなら、本作は97点で、「真・女立食師列伝」のような不真面目というべき作品があるのが残念であるが、それでも私は宮崎作品より押井作品の方が好きである。」としている。

 しかし、ここで押井アニメの傑作は何れも「攻殻機動隊」であり、「攻殻機動隊」には別途、神山健治監督の作品があることに気付き、「S.A.C」と「笑い男」のDVDを観て、「カリスマ押井守の「イノセンス」「Ghost」の2作に感激して、神山監督の「攻殻機動隊」をS.A.C及び「笑い男」と続けて観た。面白いが、どうみても、押井作品と神山作品は相違するより圧倒的に同じ作品で、なぜ押井守だけが重要視されるのかが理解できない。「攻殻機動隊」が素晴らしいのは、原作者士郎正宗のアイディアと構想が素晴らしいことにつきるのではないか。人の褌で相撲をとっているような押井氏が高く評価されるのはなぜなのだろうか?」と寸評しており、この気持ちは今も変わらない。
 最新作「スカイ・クロラ」については、既に8月29日に当ブログに書いたが、あまり感心していない。この際、他の押井作品も観ておくことにして、初期の代表作と言われる「うる星やつら」と「機動警察パトレイバー」のDVDも観ることにした。「うる星やつら」は私には耐えられない映画で、「パトレイバー」も近未来ロボット物語以上の作品とは思われなかった。

 思想家として押井監督を評価する声もあるが、以上総じて、私には「押井守」の実像が理解出来ない。講釈師のように、かっこいい言葉を気持ちよく聞かせる才能に優れたものがあることは認めるものの、それが押井氏の本当の叫びなのか他人の言葉を借用しているだけなのかが分からない。「押井守論」といった書物もたくさんあるようで、この程度のにわか勉強で押井氏を云々することは失礼なことであるが、幸い身近に押井守研究をしている若手研究者がいるので、彼の作業が一段落した段階でその成果を教えてもらうことにしたい。
 映画への投資家として見た場合、押井作品は完成してみないと本当の姿が見えない、つまりリスクの高いクリエイターと考えざるを得ないと言えそうである。