推理小説

 仕事や生きて行くには、いろいろ推理することが必要であり、本を買ってまで推理するのは疲れてしまうとの思い込みがあり、推理小説はあまり読んだことがない。
 知人が、金融関係では宮部みゆきの「火車」と奥田英朗の「最悪」が面白いと言っていたので、読んでみることにした。「火車」は消費者金融に関係した小説であるが、あまりにも話が人為的で途中で読む気がしなくなってしまったが、早送りで最後まで付き合った。松本清張の社会性のある推理小説には引き込まれるものを感じるが、「火車」のようなあまりに人工的な作り話に付き合うには人生は短すぎる。何故このような作り話に山本周五郎賞が与えられたのだろうか?
 銀行強盗をテーマにした「最悪」は、引き込む力を持っており、面白かった。しかし、3人の人生を独立して進行させ、最後に銀行強盗事件でこの3人を関係付けさせる手法は、「バベル」という映画で日本でも知られるようになったメキシコの大監督アレハンドロ・G・イニャリトウの3部作を思い出さずにはいられなかった。3部作の中では、最初の「アモーレス・ペロス」が最も素晴らしい作品であり、「21グラム」「バベル」の順であると思っている。「アモーレス・ペロス」とは「犬の愛」と言う意味なのだそうだが、自動車事故を唯一の接点とする、犬気違いで、信頼できる愛を見出し得ないの3人の人間をめぐる三者三様の物語。後部座席に血だらけの黒犬を乗せ、必死に逃走する自動車の導入部でなんだこれはと思わされ、最後まで重苦しい緊張感を待たされ続け、ほっとする部分がほとんど無い映画。これが人生、人生にはこんな人間関係や愛し方もあるんだ、こんな悪いやつもいるんだ等々、たくさんのメッセージを詰め込み、導入部が途中で復元してくる6の字のような構成で、しかも論理的にも納得できる作りになっている。画面の構成や登場人物も素晴らしい。特に、初老の殺し屋エル・チーボを演じるエミリオ・エチェバリアが素晴らしい。映画史に名が残されるべき傑作だろうと思っている。
「最悪」の物語構造があまりにイニャリトウ監督の作品に似ているのは不思議ではあるが、時期的にはほぼ同時期で、強く影響されたとも言い切れない。小説「最悪」の弱点は、3人が同じ舞台に立つことになってからの話が、すっきりしないで混乱しているような思われる点である。この小説「混乱」がテレビ・ドラマ化されていたので、イニャリトウ監督の作品と比較する興味もあり、DVDで観ることにした。しかし、このDVDはまさに最悪の出来で、沢田研二主演のミス・キャストから始まり、先ず3人の独立した人生を描くという原作の構造を無視し、原作の緊張感や社会性も描けておらず、原作をボロボロにしてしまった失敗作であり、まことに残念なものであった。誰かが映画化を考えると面白い作品になるようにも思われるが、その場合、イニャリトウ監督の作品に似ていることが話題にはなるではあろう。小説「最悪」はイニャリトウ監督をパクッタのであろうか?推理には値するように思われる。