「グラン・トリノ」と「GOEMON」

 私にとって通常であれば、この2本の作品は、映画館には観に行かないで、時間があればDVDで観るカテゴリーに属する作品である。しかし、「グラン・トリノ」は日本の代表的映画プロデューサーが「どうして、クリント・イーストウッドはあんなに映画作りが上手いのだろうかねー」と話してくれたので、観に行くことにし、「GOEMON」はわが国のデジタル・コンテンツ教育のカリスマが「久しぶりにスケール感のある映画を観た。こう映画がある限り、映画館は無くならない。」と言っていたので、観に行くことにした。
 「グラン・トリノ」は、極めて単純なストーリーの中に、沢山の構成要素を折り込み、笑い、人生、涙、人間愛、アメリカ特有の社会問題等々を実にうまく無駄なく描いている。予算がデカイだけのバカ映画もアメリカ的であるが、本作やJUNOのようなアメリカでしか作りえない傑作を作り出す力が、アメリカ映画界にはまだまだ残っていることを証明してくれた。無名のアジア系俳優たちも素晴らしい。また、65歳の私には、意味のある死に方の見本も示してくれた。
 「GOEMON」は、「少林少女」のように、宣伝で客を呼び込むだけのCG映画とは、クラスが相異した映画で、オリジナルに話を創る努力と独自の画面構成に挑戦しており、制作費わずか15億円という日本的低予算でも国際水準に近いCG・VFX映画を作ることが可能であることを知り、大変嬉しかった。無論、「グリーン・デスティニー」「スター・ワーズ」「HERO」などを初めて観た時のインパクトには及ばないが、この分野に出遅れた日本の作品としては、高く評価したい。この製作費が15億円に過ぎないのであれば、つまらん映画を作らずに資源を集中すれば、世界にビジネスとして通用する邦画製作が可能になるかもしれないと思われてくる。予算の制約からか、やや雑なところがあるのが残念であるが、国際的にある程度評価されることを期待したい。そうすれば、付和雷同の国内評価も一変するはずである。この観点からは、あと10億円予算を大きくすべきだったかもしれない。多分、国際マーケットでは安手のCG作品と思われるし、信長・五右衛門 Who?と言われてしまうのではないだろうか。その意味では、CG/VFX邦画のより高いレベルへの過渡期的作品になるのではないかと思われる。

 この2作品を並べた理由は、この2本が国際的に通用する邦画を企画する方向性を示しているように思うからである。一つの方向は、「グラン・トリノ」等のイーストウッド作品に見られるような、理解しやすくかつ人生のある側面を深くえぐり出すようなシナリオに基づいた比較的低予算の作品。もう一つは、「GOEMON」にように、それなりの話をベースにした低予算CG/VFX映画で、いわば香港ワイヤー・アクションで世界を席巻した「グリーン・デスティニー」のように、日本発の低予算CG/VFXエンタテイメント映画の分野を確立することである。「運命じゃない人」「アフタースクール」の内田けんじ監督、「GOEMON」の紀里谷和明監督などは、それぞれの分野でその可能性を感じさせてくれているように思われる。