「ハゲタカ」

 評判になっている「ハゲタカ」を観に行きました。
NHKテレビ・ドラマも面白かったが、この映画は予想以上に面白かった。実際の金融経済が激動した時期であったことから、何度もシナリオを書き換えたということであるが、たくさんのトピックスを2時間の枠にスピード感豊かに押し込んだ技量は、日本映画離れした傑作であると思う。原田眞人監督の「金融腐食列島(呪縛)」やオリバー・ストーン監督の「ウォール街」が、金融ビジネスを対象にした傑作として思い浮かぶが、本作は問題意識の広さを考えると、テレビ・ドラマや金融問題の語られてない部分を気にしないのであれば、前2作を凌駕していると言ってもよい様に思われる。

 ドラマであるから、ドブネズミ集団が多数派で、不安と混乱、そして疲労が支配するビジネス現場に比べると、ドラマチックに描かれ過ぎているが、話の内容は決して荒唐無稽ではない。
 日本の誇りである日産自動車は、ロクな車も作れないフランスの国営自動車会社に既に買収されているわけであるし、自動車市場が停滞する場合には、ルノーは日産を中国企業に売却するのではないかと言われ始めている。ソニーもサムソンに買収されるのではないかという噂が消えない。1500兆円の個人金融資産がありながら、国内優良企業の30%程度の株式を外国人投資家に持たれてしまっている。日本は金持ち国家でありながら、その自覚と戦略を持っていない。孫正義氏は、Yahooに投資したから今日があるわけで、日本が国家戦略として余剰資金を有効活用していた場合との機会損失を考えると残念極まりない。

 あるいは、映画の終盤にサブプライム証券を売り浴びせて投資銀行を追い込む場面が出てくる。これと同じ手法で、日本は苦渋を飲まされたと言われている。バブル経済が行き詰まりを見せた80年代終盤、米系投資銀行は多量の国債を売却し、円金利急騰、株価下落を加速させる戦略をとり、転換社債との裁定取引や株価デリバティブとの裁定取引で暴利を上げたと言われている。(因みに、2008年に最も稼いだJ.シモンズというヘッジ・ファンド・マネジャーの年収は何と2500億円と言われており、これだけあれば、何本でも大作映画を作れることになります。)
このように、状況に応じたビジネス戦略を柔軟に発想し、実行できる力は日本の金融機関には今でも不足している。金融産業だけではなく、政治、行政、教育、映画・テレビ業界等々、国内にしか関心のないリーダーが支配する80%の日本のセクターは大同小異の状況で、これがこの国の閉塞感と無力感の原因である。

まだまだ沢山言いたいことはありますが、要すれば、「ハゲタカ」は、相当に本当の問題を描いていると言うことであり、それをこれだけ面白く映画化し、たくさんの観客を引き付けていることは素晴らしいことである。「おくりびと」や「重力ピエロ」のような日常私生活の分野で良い作品が出始めたことも結構であるが、「ハゲタカ」のような社会派ドラマでも独自性を持ち、世界に通用する作品が出始めたことは明るいニュースであると思う。