JDC信託の蹉跌

 ジャパン・デジタル・コンテンツ(JDC)信託に業務停止命令が出された。JDCは、映画ファンドなどを信託スキームを利用して、証券化する目的で設立された。通産省コンテンツ産業育成事業の勉強会の成果から生み出され、トヨタ自動車筆頭株主に2000年には東証マザーズに上場、05年には信託銀行以外で始めての信託免許取得第1号になっている。
 しかしながら、事業は不振を極め、映画ファイナンスを研究する立場からは、目を離すことの出来ない存在になっていた。能弁な創業者社長がこの事業の可能性と自慢話を嬉々として流し続けていたが、会計数値は累積損失の蓄積を示し続けた。トヨタ自動車筆頭株主の官製事業との印象が強く、また損益予想を繰り返し大幅下方修正したことから、仕手株化し、資本市場での評判は悪化の一途をたどり、従業員による資金の持ち逃げや経費の使い込みなど、株式公開企業としてはあるまじき行為を続けてきた。
 今次の処分は「信託勘定からの資金流用の発覚などによる、顧客資産の返還命令」と信託スキームの根本に関した問題で、信託銀行以外の事業体が信託勘定を利用することを推進した経済産業省の責任、株式公開企業としてあるまじき行為を黙認し続けた東京証券取引所金融庁の責任が問われるべき事件である。アメリカにおける巨額の投資会社詐欺事件や日本の社会保険庁問題などに比較すれば、役所の失敗としては小さな問題かもしれないが、問題が制度の基本に関する不備であるだけに重要なミスとも言え、臭いものにフタをするような目立たない処分に終わらせて欲しくない。
 また、映画などの独立系コンテンツ産業ファイナンスのシンボル的存在になってきたことから、JDC信託の見苦しい蹉跌は、当初の意図と反対に、独立系コンテンツ産業の資金調達を一層困難なのもとすることなることが懸念される。