フロスト×ニクソン

 見損ないの映画を観るために、正月に借り溜めしたDVDのひとつが「フロスト×ニクソン」。
ウォーター・ゲイト事件時に、アメリカ留学中であったが、残念ながらフロストVSニクソンの対決は見損なった。家内を含めリベラルなアメリカ人に囲まれていたこともあり、「イカサマ氏ニクソン」という印象が強い。しかし、本作にある酔ってニクソンが掛けた深夜の電話は、恵まれない環境を克服して育ったニクソンの名誉回復への執念、同じく上方志向の強いフロストのバックグランドをも同時に説明し、胸に迫るものを感じた。ニクソンは、一流の人間ではないとしばしば言われて、劣等感の裏返しのガンバリであそこまで行った人物と言われ、それが強い猜疑心やウォーター・ゲイト事件の原因にあったに違いない。この観点からは、田中角栄、もっと広げれば、明治維新以降の日本人の心理に近かったように思われてくる。出来の悪いブッシュJr.や、ストレスが強くなると首相の座を無責任に放り出してしまった安倍、福田、麻生(そして多分、鳩山、小沢)などの顔を思い出して、「頑張れ ニクソン」と言いたくなってしまう。
 また、フロストに一本とられて敗れた後で、ニクソンが「自分はこんなに頑張ってきたのに、どうして人気がないのだろうか?君(やJFK)のように深慮遠謀には欠けるが、人気者である人間が羨ましい。君が大統領で、私がインタビュアーであったなら、二人とももっと成功していたかもしれない」というくだりにもほろっとさせるものがあった。
 なかなかの深みを感じさせる秀作である。

プロスト×ニクソン」が面白かったので、O.ストーン監督がニクソンをどのように描いたかに興味が湧き、「ニクソン」を観ることにした。本作も、複雑なインチキ人間と言われたニクソンを予想外に好意的な見方を残して描いている。JFKはほとんどリップ・サービスだけの大統領で、LBJが意外に良い仕事をしたことは多数が支持する見方であるが、ニクソンはJFKよりは真面目な大統領だったのかもしれないとまで思わせる。オバマ大統領がJFK同様のリップ・サービスによる人気だけの大統領である場合には、後が無いだけに、アメリカ帝国の凋落は決定的なものになろう。

 ニクソン映画を2本続けたので、O.ストーンが史上最低と言われるW.ブッシュをどのように描いたかに興味があり、「ブッシュ」も観ることにした。意外に好意的に描いており、平均的アメリカ人が親の威光で大統領になれば、こんな程度であるという感じの描き方。大衆が自分に合わせた低レベルの大統領を選んで、アメリカの馬鹿さ加減を世界に知らしめたという観点からは、安倍、福田、麻生、鳩山と日本は4人のW.ブッシュ類似品が首相を務めていることになり、4倍ひどい状況にあると言えよう。
 W.ブッシュ程度の人間が世界の専制君主のように権力を振り回すことは大いに問題ではあるが、それをアッケラカンと映画にしてしまえる点がアメリカ民主主義の良いところなのだろう。お坊ちゃまばかりが首相になる日本は何処に救いを求めれば、よいのであろうか。