藪中三十二「国家の命運」

 構えてしまうような題名の本ではあるが、仙台との往復で読めてしまう新書である。しかし、何様か解らない連中が売らんがために世の流れに迎合して書いた小遣い稼ぎの本ではなく、事務次官まで務めたプロ外交官の書かれた物であるから、それなりの敬意を持って読ませてもらった。
 親米の私としては、「第1章アメリカ離れのすすめ」という書き出しが気になったが、これは何でも反米との印象を与える鳩山稚拙外交ではなく、論理的かつ明瞭に自国の意見を表明し、外圧がないと真剣に反応しないような外交ではダメであるというもっともな指摘で、将にわが意を得たりである。先ほどのTVニュースは「北朝鮮の原子炉建設や核実験準備と思われる行動にアメリカは監視を続けている。」で終わっていた。北朝鮮の脅威に真近に晒されているのはわが国であり、わが国としての見解と対応を伝えなければ、主権国家のニュースとは言えない。
 国際的に活躍している日本人は、国内での謙譲の美徳と対外的な自己主張の両刀を使える人物である。法律の勉強をしたことがない法務大臣を選出することは信じられない愚挙であり、外交に携わる人間は前述の両刀を使える人物を選ばなければならない。「鳩山首相に近い寺島実郎は2009年12月に、緊張が高まっていた日米関係の誤解を解くとの目的でワシントンを訪れたが、米政府の有力者とは会談できなかった。このことから寺島は外務省やアメリカ政府に人脈を持たず、外交や安全保障に関しては書物レベルの認識しか持っていないという指摘もある。(Wikipedia)」間違ってもこのような人物をプロ外交官を無視して登用し、外交を混乱させてはいけないわけである。こんなことをしているから、アメリカから距離を置かれてしまっただけでなく、中国やロシヤにつけ入る隙をみせてしまい、国益を大きく損なったのであろう。
 藪中氏は、己を知り敵を知る、事の本質と軽重を理解する、主張すべきは明確に述べ受け入れるべきは受け入れる等々、私のビジネスでの国際交渉の経験に照らしてももっともであると思われることしか述べておられない。プロの理解はあまり違わないようである。