Jライトマン監督「マイレッジ、マイライフ」

 邦題とGクルーニーが主演であることから、軽い乗りのコメディー映画と思っていたが、ビジネス界を舞台に、たくさんの論点を織り込んだ佳作であり、アカデミー賞候補になったり、他で脚本賞を受賞していることが納得できた。ビジネス界に長年身を置いた観点から、面白いと思った点を箇条書きにすると次のようになる。

①解雇は日常で、それがアメリカ社会であり、管理職の仕事と思ってきたが、「解雇エンジニアー」「解雇請負人」といった専門業務が有り得ること、解雇の現場でのやり取りが予想以上にウエットであり、我々のメンタリティとあまり違わないこと等々を改めて知ったこと。アメリカ勤務中に私が解雇したアメリカ人の課長が、その後の業務関係の訴訟で大変協力的であったことを思い出したが、解雇に対するアメリカ人の多様な反応が参考になる。

勝間和代さんを若くしたように頭が良く、学校の成績も良く、経験が無いのに自信過剰でイッパシのことを言う若手ビジネス・ウーマンが、直接面談解雇方式ではなく、テレビ電話により出張せずに低コストで解雇するビジネス・モデルを売り込むが、結局、解雇された黒人女性の自殺で、あえなくギブ・アップする。まさに、ハイテック時代には、ハイタッチが必要であることや、経験の重要性を無視した非人間的な処理ではダメであることをアメリカ映画が言っていることが面白い。「銀行に金を預けるな」と言った本で投資信託を推薦し、読者に大損をさせながら何の反省もしてないように見える勝間女史より、はるかに誠実に問題提起をしている映画。

③主人公は年間230日以上の出張で、飛行マイレッジ10百万マイルという偉業を達成する。結婚に意味を見出さない独身主義者で、飛行機、ホテル、ワンルームが彼の人生とする超現代人とも言うべき人物。彼が同類と思われる女性と生活をともにしようと思うとたんに、彼女には家庭も子供もあることが解ってしまう。この映画の登場人物は皆、矛盾した側面が同居しており、それが人間なのだと語りかけてくる映画。

 以上の他にもたくさんの論点を散りばめ、それをビジネスの舞台で面白く展開している技量はとても若手監督の作品とは思われなかった。観てよかったと感じる佳作であった。
 これを機会にライトマン監督の「サンキュー・スモーキング」も観たが、単にタバコ・ロビーストの映画というより、ものの見方の多様性や人生の異なった側面を切り出したこれまた面白い作品。「マイレッジ、マイライフ」への通過点になった作品だと思う。