川島博之「農民国家・中国の限界」

 昨日、期せずして「農民国家・中国の限界」を書かれた川島博之さんの講演を聞く機会に恵まれた。年末の当ブログで「日本の過去は中国の将来像?」として、私の経験と直感から中国問題を述べたが、川島さんがもっと体系的な分析を踏まえて類似の結論を導かれていることに強い興味を覚えた。
 川島さんは食料自給問題などの農業環境研究を専門にされておられるが、中国との接点から「中国は身分制度としての多数派である農民の国家であり、差別された多数派である農民がはるかに少数派の共産党員を中心とした特権階級に支配されている状況は極めて不安定で、世界の大国になりうる状況にはない。日本は大人としての余裕を持って、発展途上国中国に対応すべきである」と結論されている。
 鋭い指摘だと感じた点は、共産中国では土地は国有であり、その土地を保有する国家機関(地方政府や土地開発公社)が不動産賃貸料として莫大な収入と財力を持ってきており、それが官僚に支配されているので、金を通しての資源配分が迅速かつ戦略的に行われており、それが中国を実体以上に大きく見せることになっている。しかし同時に、国家財産の特権階級による私物化や賄賂が常態化せざるをえない社会システムで、これが上海等の急速な近代化投資や中国マネーの正体。例えば、上海や北京に地下鉄は既に東京を凌ぐほどの走行距離になっているそうであるが、国家機関が路線や駅の位置を決め、しかも駅前の一等地も当然に国有地であれば、面白いように特権階級が支配する政府に金が流れ込んで来るし、その金で世界の資源を買占め、航空母艦を建造することが直ちに始められる。いわば、不動産バブルが次々に作られているわけである。多数派の農民を取り残した状態が長続きすることは不可能。
 その外にも、面白い観点が沢山ありそうなので、早速「農民国家・中国の限界」を読んでみたい。中国の専門家からは批判を受ける内容なのかもしれないが、重箱の隅の問題に引きづられた専門バカの意見や中国にしっぽを振ったような意見より、自分の専門の観点から独自分析を述べられる川島さんのような観点は貴重なものと思われる。