「ソーシャル・ネットワーク」

 仲の良いアメリカ人が誉めていたし、ゴールデン・グローブ賞を作品賞、監督賞、脚本賞、作曲賞の4部門で受賞、アカデミー賞の呼び声も高くなり、講義の話題としても使えるので、「ソーシャル・ネットワーク」を観に行った。確かに、悪くない映画であるが、どの点がどのように高く評価されている映画なのかを迷う映画でもある。
  Ben Mezrichの原作本は、The Accidental Billionairesと意味深長な題名で、FacebookのCo-founderCFOのEduardo Saverinと訴訟資料が情報源ということだから、情報源のバイアスは受けているはずで、取材を拒否されたMark Zuckerbergが技術バカ善人のような印象で描かれているが、ビル・ゲイツ同様、勝てば官軍ということなのだろう。

 一体この映画は何をメッセージにしたかったのであろうか?
Facebookという名前が示すような下品でくだらない着想であっても、時価500億円超の企業体を作れるのであるから、諦めずに励むことが肝心だと言いたいのであろうか?
・自由な国アメリカというイメージを売り込んでいるが、ハーバード、閉鎖的結社やクラブが象徴するアングロ・サクソン支配は強く残っており、映画やマスコミに影響力を持つユダヤ系ですら差別されていることを示したかったのであろうか?
・供給過剰の法律家があらゆる問題を飯の種にしようとしており、マイクロソフトのビジネス・モデルが示すように、本当の飯の種は技術力ではなく、市場を支配し、法律でそれをプロテクトすることであることを証明したかったのであろうか?
・映画の冒頭に見られるように、速射砲のようにしゃべりまくることは高いIQの証であり、考えすぎて簡単に表現が出来ないようなタイプはアメリカでは落ちこぼれであること、NIKEではないが"Just Do It."がビジネスで成功し、世界を支配するモデルであることを示したかったのであろうか?サブプライム・ローン問題に象徴される金融ビジネス、マイクロ・ソフトやグーグルが象徴する情報産業等々アメリカが主導権を握っている産業は、考えすぎずに"Just Do It."で、このような状況でよいのであろうかという自己批判なのであろうか?
・薬物問題、銃器による殺傷問題、経済的格差と貧困問題等々の国内問題、海外で戦争を始めれば日本に勝って以来、朝鮮、ベトナム、アフガン、イラクと勝者になったことがないアメリカは、偽悪的に映画で宣伝するまでもなく世界の範たる国ではないことは簡単に解る。同じような熟慮の無さがThe Accidental Billionairesを生み出していることに世界は早く気付くべきであると言っているのであろうか?

 確かに面白い映画であるが、いったい何を伝えたいのであろうか?「メッセージが欲しかったら、電報会社WUに行け。映画はエンタテイメントで、金儲けの手段だ」というゴールドウィンの言葉がアメリカ映画の本質であることを示しているだけなのだろうか?

(追伸)これを書いた後に見つけた「SNS全盛でシリコンバレーが失ったもの」という雑誌記事です。http://www.newsweekjapan.jp/stories/2011/01/post-1893.php?page=1