オリバー・ストーン監督「ウォール・ストリート」

 87年に、乗っ取り屋ボエスキーをモデルに制作された秀作「ウォール街」の続編。リーマン事件をモデルにしたということで、楽しみにしていた。それなりの出来ではあるが、物足りなさは否めない映画。

①映画の前半は、24日に書いた「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」をなぞったように、リーマン事件の経緯が映し出される。重要な相違があるとすれば、リーマンの社長と思われる人物が映画ではナイーブな人物で、地下鉄自殺してしまうこと。ストーン監督は、金融危機を招いた責任は死を持ってあがなうべきと示唆しているのかもしれないが、刑期を終えて出所したゲッコーがスイス銀行に1億ドル(82億円)の秘密預金を残していたように、金融危機を招き、株主や関係者、世界経済に多大の損害を負わせた当事者達の大多数が信じられないほどの大金を持って豪勢に生活し続けているわけで、(マドフの長男は自殺してしまったが、)大金を持って食い逃げできる道を残して置く限り、今後も違法ギリギリの金融犯罪や企業犯罪が繰返されるはずである。ストーン監督がこの点を明確に批判しきっていないことは、大変気にかかる点である。

②上記と関係するように思われるが、ストーン監督がリーマン事件の判断を放棄したことからか、映画の後半は金融ビジネス・アニマルのはずのゲッコーが娘や孫の存在に拘束される普通の老人であることが強調され、失望させられた。孫一人と1億ドルのどちらかを選べと言われた場合、孫を選ぶ人の比率はどのくらいだろうか?私は孫6人を選択し、6億ドル以上の資産家より幸福であると思うことにしているのであるが・・・

③ゲッコーの娘の恋人を演じるシャイア・ラブーフがオロオロ・ウロウロとした弱い男にしか見えないミスキャストで、マイケル・ダグラスのはまり役ゲッコーにはとても対抗出来ていない。この点を含め、映画全体にストーン監督の迷いを感じさせられた。

総じて、ストーン監督作品としてはやや期待を下回った。