A.レボー「バーナード・マドフ事件」

 リーマン問題の影に隠れてしまったが、マドフによる6兆円とも言われる金融詐欺事件は、現在の金融システムや現代アメリカ社会を考える上で、もっと注目されるべきだと思っている。ツンドクしてきた本書は、マドフ事件を取り上げた数少ない著作である。
 本書は、遅れてきた東欧からのユダヤ人であるマドフが、先にアメリカに移住してきたドイツ系などの富裕ユダヤ人を意趣返し的に食い物にしたという観点を強調し、マドフを中心とする人間関係を克明に書き出している。しかし反面、野村證券や生保といった多くの日系金融機関を含む世界の巨大金融機関がたくさん被害者に含まれること、ナスダックの創業者であるマドフが単なるチンピラ詐欺師ではなく、アメリカ金融界のエスタブリッシュメントであっただけに、SECを代表にアメリカ政府、金融当局がとんでもなほど無能であるのか、ベールに覆われた権力が強い影響力を持っているのかといったより大きな問題の調査と記述が不十分である。情報があまりに不十分であり、本件の調査レポートもあまり存在しないので、闇から闇へ葬り去る力が存在しているようにすら思われてくる。沢山の訴訟が存在しており、それらを手掛かりに真実に迫る調査レポートをまとめるジャーナリストの努力を期待したいものである。