黒木亮「獅子のごとく」

 数年前から、突然の腰痛に苦しんでいる。幸い、慢性の腰痛にはなっていないが、何かに拍子に突然襲ってくる。腰痛が治ったと思ったから、昨年は久しぶりにイギリスの田舎に行き、素晴らしい夏休みを過ごしたが、その最後の二日間は腰痛に襲われ、また弱気に戻ってしまった。要するに、長期間の旅行などが不安なので大変残念である。
 昨日、久しぶりに腰痛がお出ましになり、楽しみにしていた会合を欠席することになった。5歳年上の先輩の訃報連絡も入り、改めて残りの人生の過ごし方を考えさせられている。
 とりあえず昨日は、積読になっていた黒木亮「獅子のごとく」を読むことにした。同氏の「AAA 小説格付会社」はあまり面白くなかったが、本作は面白かった。副題に「小説 投資銀行日本人パートナー」とあるように、本作は主人公のモデルとなった人物をはっきりと知ることが出来、ほとんどの場面が実際に起こったこと、実在の金融機関や人物であり、これが面白さを加速することにはなっていた。黒木氏が得意とする海外のやや荒唐無稽な話であれば、支障も少ないだろうが、本作のように実際の人物が解ってしまう「小説」というのには、やはりある種の抵抗感を感じる。批判することがご法度と言われる司馬遼太郎歴史小説の眉唾講談や、高杉良さんが得意とするインサイド情報の聞きかじりメモとも言うべき「小説」は面白いが、その真贋の判断に迷ってしまう。作り話を歴史や人物の真実のように誤解させ、世の中をミスリードしてしまう危険性をこれらの大家たちはどのように考えておられるのだろう。司馬遼太郎をとらえて「講釈師、見てきた様な嘘をつき」という声はほとんど聞こえない。モデルになった人物も投資銀行名誉毀損の訴えを起こしてないということは、事実に近いと考えて良いのであろうし、そのような情報を入手し整理できることが高杉良さんや黒木亮さんの存在意義なのかもしれない。