東北関東震災と資産運用

 被災地の惨状が続いている現状で、資産運用を語ることには多少の罪悪感があるが、明日になれば証券市場や為替市場の取引が行われるわけで、自分の老後を託す資産運用に携わる個人投資家として、また大学で金融や証券投資分析を教え、金融機関のコンサルタントであるプロとして、震災と資産運用の見通しを整理してみたい。

 情報がグローバル化した現在では、ほぼリアルタイムで災害の情報が世界に発信されている。試しにCNNや日経CNBCといったニュース専門チャンネルを見ると驚くほど多量の情報が流され、日本国内では言いづらいようなコメントも述べられている。日本がヒーロー達の活躍に感動し、被災地の窮状や生存者の発見に涙している時に、日本の現状を資産再アロケーション問題(下品に言えば、金儲けの材料)としてクールに観察し脳漿を搾り続けている連中が少なくない。彼らに簡単に漁夫の利を得られないように、これから先の資産運用を考えることは自己防衛として不可欠であり、復興資金を増加させることを可能にするかもしれないわけである。
  CNNなどは早くからこの災害の被災地は、日本のGNPの2%程度を占めるに過ぎないと言い続けている。私の記憶では、東北地方の上場企業の数は40社程度で、しかもこれには相当な数の地方銀行が含まれている。この辺の強気の判断が、外資系証券の寄り付き前の注文動向が、16日が2070万株の買い越し、17日が3070万株の買い越し、18日も2530万株の大幅な買い越しとなっていると考えられる。外国人投資家は、日本の株は割安になっていると判断したように思う。頭の固い事なかれ主義のご当局の指導で、日本の銀行、保険、年金運用などの機関投資家は株を購入することを避けてしまっている。この結果、千載一遇の買場を見逃しているのかもしれない。
 しかし、注意すべきは福島原発問題の帰趨である。つまり、チャルノブイリ以上の惨事になるか否かである。チャルノブイリの悲劇は炉心融解とそれに続く爆発で放射性物質が世界に撒き散らされた事件であるが、翌日スウェーデン放射性物質が検出されるまでソ連は事実を公表しなかった。諸外国は、日本も同様の情報管理をしていることを懸念した結果、日本からの退去や空港での放射能検査を実施しているわけである。東京電力には事実隠蔽の前科があるが、菅総理が怒りをぶつけた事や衛星写真の情報や放射能の遺漏から情報統制はあきらめたように思われる。しかしながら、一昨日までは放射性物質の外部遺漏がありながら、炉心融解はあったものの外部遺漏の無かったスリーマイル島より事故の深刻さを低いと判定するなど、現在でも東電と政府の情報隠蔽や歪曲が皆無であるとは思われない。
 福島原発の最悪シナリオは、炉心が融解し、水蒸気爆発が生じ、格納容器や圧力容器を破損させ、放射性物質を放出させ、しかも隣接する複数の原子炉も巻き込む事態で、これが起こるとチャルノブイリ以上の惨事になりかねない。外国人のみならず、一部の日本人も海外や関西に脱走し始めた所以である。菅総理放射性物質の遺漏があると言うだけで、大きく株価が下落し、ヘリコプターからの気休めのような放水が始められただけで、株価が上昇した理由である。
 この3連休で、消防庁の表面化したヒーロー達、自衛隊や東電とその東芝・日立を含む下請け企業の使命感と責任感に満ちた未だ目に触れてない多くのヒーロー達の必死の努力でことは好転しつつあるように思われる。菅総理やガンバッテいる枝野官房長官の発言にも好転の感触がにじみ始めてきた。予断を許さない難問が残されているが、金曜日に比べれば明日火曜日の福島原発のトラブルは改善していると判断されるので、将来を先取りする株式市場は寄付きは上昇するものと思う。今晩の海外株式市場の状況、寄付き直前の外資系証券の売買注文動向、為替相場等々で明日の朝に事前にほぼ確認できる。しかし、18日に為替介入と原発への放水で2.5%前後の大幅上昇を示しているだけに、日本企業のバーゲン・セールと言うほどの割安感はなく、上値は限られ、10時位から伸び悩みを見せるのではなかろうか。中期的には復興需要で景気は良くなり株価も上昇すると思われるが、当面のリバウンドは短期に終わるように思う。(GNPはフローの増加で、この大災害で失われた住宅や船舶、インフラといったストックの巨額の損失はGNP統計には反映されない。復興資金は個人、企業、国・地方公共体の負担として分担される。)
 したがって、明日の株式市場は10時前後がひとつの勝負の時となる。
(明日へ続く)