東京電力の責任とその負担

 KMVというベンチャービジネスが、90年代前半に企業の信用リスク計測モデルを開発し、世界の機関投資家が採用するまでに普及した。株価変動とオプション理論を応用した優れたモデルであるが、先方が日本企業への応用に苦労していたこともあり、何度かサンフランシスコの丘の上にある平屋のオフィスを訪問した。株価の先見性を信用リスクに利用しようとする新鮮さがあり、その後ムーディという格付け機関が買収してしまったが、Kさんも、Mさんも、Vさんも相当な財産を作られたはずである。
 その時「東京電力という地域独占の大公益事業の信用リスク」という議論をしたことを覚えている。私は、「東電は日本で最も倒産するリスクが低い企業で、これに最上位格付けを与えないことはおかしい」と言ったが、先方は、「仮に東電が自分のミスで原発の事故を起こし、巨額の損失を出したとき、国は無条件で債権を肩代わりするだろうか?東電がミスで損失を出したら、株主はもとより債権者も応分の損失負担をすることになるとのではないか」
 当面の危機を乗り越えることが出来れば、次は災害の被害と復興負担を誰が負担するという議論になる。東電は、「自分らは国と相談し事業を進めており、今回の事故は想定外であり、自分らも被害者である」と主張することであろう。全ての放射能汚染の被害と保証を東電が負担することになったら、倒産以外の道は残されていないかもしれない。しかし、KMVのように、東電の倒産は想定内の事象であると20年近く前に考えていた連中がいたわけである。仮に、想定外の津波で被害を被ったのであるから、国が東電という株式会社の法人を相当までに救済することになった場合、水産業、農業その他の事業を国の方針に従い経営し、想定外の津波で致命的なダメッジを受けた被災者や被災企業と何を理由に異なった取り扱いを正当化するのであろうか?電気が無くとも食い物があれば生きていける状況を見れば、電力が農水物よりは重要であるからとは言えまい。
 災害被害や復興支援として、法人税所得税の免除といった案が出されてきたが、本当に苦しんでいる税金を納める必要のない人や貧困事業は免税とは無縁である。更に、税金を減らし、効果が感じられるほどの支援策を講じれば、国民一人当たり7百万円と言われる国債残高が増加してしまう。1500兆円と言われる個人資産も、銀行や保険の運用資産として既に相当部分が国債購入に当てられており、ほとんど追加購入力が無くなってきた。災害被害や復興支援の相当部分を国が負担するような雰囲気であるが、その原資を外国に求めることになる状況を想定すれば、日本のピンチがはっきり見えてくるのではないだろうか。減税党などというデマゴーク、二流の芸能人の知事達、農家の保障手当てやこども手当てに代表される無責任な人気取り政策等々、芸人の馬鹿話が一番といった低い民意の現われのようで、今後が大変心配である。今回の原発事故で海外に一時逃避した日本人の知人の存在を意識すると、カネを持った日本人は、多くの後進国がそうであるように、既に脱日本の準備を始めているのかもしれない。少なくも、ある程度の資産を円以外の国際的に通用する資産に投資し、長期滞在ビザの確保策を考えるべきかもしれない。聞く耳を持たない日本人同胞の変化を待つより、自分だけの問題として解決する方が簡単かもしれない。