日本の底力

 先日、子供の頃から家の改修をやってくれていた大工さんが亡くなった。私より7才年上であったから、最近ではやや若死にと言えるだろう。中学を出ると父親のお供で大工仕事を手伝い始め、仕事を終えるとたくさんのおしゃべりをして帰って行った。生まれ持った地頭が良く、広く世界に好奇心を向けていたことから、政治・経済、肌で理解した社会の実像等々、面白く挑戦的な話が多かった。自分は中学卒の大工(二級建築士ではあったが)に過ぎないが、東大出の坊やはオレより何ぼ利口だというのだ、と挑発的なところもあり、内心では腹を立てながら話をしたこともあった。田中角栄をミニチュアにするとこのような人物になるように思われ、ご本人も角栄さんが大層お気に入りであった。
 貧しい家庭に生まれ、子供二人を立派に育て、多少の財産を残した頑張った人生だっただけに、家庭では独裁者であったようで、必ずしも安泰な晩年ではなかったようである。しかし、私も含め戦中・戦後の苦しい生活を多少覚えている世代は、今日より良い明日を信じて、許される範囲で力いっぱい世界に目を向けてきたように思う。これが戦後日本の底力であったように思う。
 菅総理に限らず、リーダーとしての底力、見識、真摯さ、美学を欠いてしまった首相を何代か続けて担いできた昨今、一介の大工に終わった人生でも、要求される能力を大きく越えた力で職分を全うし、底力を見せた人生を立派であったと感じている。
 輝ちゃん、少し遅れるけど、今度会う時には天国の面白い話を聞かせてください。