DVD4枚1000円

 東北大震災の後、あまり映画を観る気になれなかったが、「インサイド・ジョッブ」を教材に使うことにしたので、久しぶりに映画DVDをたて続けに観た。新作2本を含め、DVDレンタル4枚で1000円と言われると、4枚借りないわけにはいかない。元々、シニアーは旧作DVD200円という安さであり、老人の時間つぶしには格好のエンターテイメントではあるが、ビジネスとしての採算は気になってしまう。デジタル化された映像は限界コストが安いから、限界部分のサービス提供は益々割安に行われることになる。割引DVDどころか、無料動画配信、テレビのデジタル化によるチャンネル増加で、既に映像配信サービスは大幅供給過剰で、割引DVDレンタルより内容の濃い無料動画配信さえ存在始めている。映像コンテンツ産業を研究するものとしては、大変難しい時期である。

ノルウェイの森
ノルウェイの森」の原作は昔読んだが、ほとんど印象に残っていない。映画化はもっと難しいだと思っていたが、予想通りに退屈なロマン・ポルノのような映画であった。
 村上文学は好きではないので、多くの方が嘆くように、原作との対比でこの映画の出来が悪いというようには考えていない。撮影監督が良いのだろうが、映像は美しく、最近の日本映画の水準を大きく越えていたし、主演の二人は完全なミスキャストだと思うが、丁寧に作られた映画で、映画制作自体はむしろ良かったのではないかと思う。むしろ、「ノルウァイの森」という原作のエッセンスを引き出すと「若者向けの退屈なロマン・ポルノ」であり、それをトラン・アン・ユン監督が意図せずに証明してしまったということではないだろうか。


冷たい熱帯魚
園監督、黒沢あすか出演の本作を観ることを楽しみにしていた。期待通り面白かったが、次のようなことが気になり、「愛のむきだし」を超える出来とは思われない。

韓国映画にはやたらと血なまぐさいシーンと暴力が多いものがあり、本作がその影響を強く受けていること。グロテスクな血なまぐさいシーンは個人的には大嫌いであるし、不快感を感じる観客は多いはず。
ニヒリズムと誤解されるような感情抜きの暴力シーンは、北野映画が得意とするところで、その模造品のような場面が少なくない。
③映像が素人のように稚拙である。

 最近の崩れ行く日本の家族愛を危惧し、桁外れに強い反語表現で旨く描いているように思われ、その点は評価できるが、上記のようなことを意識させられてしまい、手放しの傑作とは思われなかった。


最後の忠臣蔵
ほとんどの映像が素晴らしく美しい。最近の若い映画制作者の作品には、素人のような映像のものがあるので、プロとしての訓練を経た本作の画面は貴重である。
 しかし、その美しい画面や登場人物(残念ながら、主演女優には美しさを感じない。特に、出だしの盲目ではないかと誤解するような稚拙な演技には混乱させられた。)が語りかけるものがあまりに古い唯我独尊の価値観であっては、とても世界的な共感をえることは出来ないだろう。
 ①忠臣蔵が好きな外人さんがいることを知ってはいるが、「主君の仇討ちに人生をかける」価値観にどれほどの同感が得られるのであろうか。
 ②まして頭目の私生児の養護に人生を賭けるべきであろうか。
 ③女は男のために存在しているのか。自分を育てるのに人生をかけた愛しい人が腹を切って死んでいる時に、自分だけぬくぬくと幸せになれるように思えない。

 明治初期の記録では、士族は日本人の5%程度で、我々の大半は武士道とは無縁の百姓の子孫である。したがって、武士道は日本人の心のよりどころではない。士族の被害者であった連中の子孫が武士道や不労階級の戯れごとに同感するのは世迷いごとも甚だしいはずである。
 このような美しいカラパゴス島の作り話を作っているようでは、とても世界に通用する日本映画の復活は望めないのではないだろうか。


カイジ
人生を始めて考えた小学生が観る悪夢のような話。こんな幼稚で工夫の無い人生論が何故映画化されてしまうのだろう。あまりの酷さにDVDを早送り。

(The Last Message 海猿
本作は海猿シリーズではもっとも面白くないと思う。しかし、海猿シリーズが人命救助につくす原発猿や地震猿などの英雄を生み出してくれているようにも思われ、このシリーズは十分に社会的貢献を果たしてくれているのではないか。東電の幹部や原子力村の学者・技術者は子供のような素直な気持ちで本作を観るべきだろう。