大いなる陰謀

kashiwaoak2008-05-07

連休の最後は、R.レッドフォードに敬意を表し、「大いなる陰謀」のレイトショーを観に行くことにした。

映画の投資採算性
映画やDVDを観る前に、Yahoo映画サイトのユーザーレビューを見ることにしているが、本作の平均評価は3点弱と低い。但し、このユーザーレビューで私が重視しているのが、「役立ち度順」つまり各レビューの意見を支持する人がどの位いるかのランキングで、本作の場合、「アメリカが抱える病巣が分かる」の105人から始まり、「役立ち度順」の上位には5点つまり総合評価で最も良いグループと評価しているレビューが並んでおり、良い映画としているレビューに支持率が高い。これに対して「採点順」に並び替えて見ると、「ひたすら眠い」等の最もつまらない映画とする1点評価がたくさん並んでいる。数えてみると、276件のレビューのうち60件が1点の評価をしており、これだけ1点評価の多い映画も珍しい。つまり、単純平均点では3点弱でしかないが、支持者の数を考慮した加重平均では4点に近くなるように思われる。
ちなみに、柴咲コウのファンである私ですら行く気にならないくらいに魅力が感じられないGW作品「少林少女」のYahooサイトを見ると、平均評価点2点で、396件のレビューのうち実に199件が1点、しかも「役立ち度順」に並べると「そしてまた1つ、ここから駄作が生まれた」(支持者195人)から始まり、支持率上位10レビューのうち、1点が8レビューで残りの2レビューも2点でしかない。加重平均すれば、評価点は更に下がる不評ということである。
ここまで読んで、大学の先生が暇なことを考えていると思わないでほしい。私の研究テーマのひとつは、映画製作ファイナンスで、その実践的課題は映画の投資採算性を出来るだけ合理的に整理することにあると考えている。映画製作はリスクが高いと言っているだけでは何の貢献にもならないし、リスク・リターン分析を整理しなければ、まともな資金が映画製作をまともな投融資対象と考えるようにはならない。日本では優秀な独立系プロデューサーの投資成功率ですら20%前後では、投資家には他にもっと面白い投資機会があると言われてしまう。映画ファンドとか証券化と言って集めた資金の元本割れを起していては資金が逃げてしまう。この観点から言えば、「少林少女」や「大いなる陰謀」のようにユーザーの評判が悪い作品は企画・製作されるべきではなかった映画ということになるだろうし、それを企画の段階で見抜けるプロデューサーやファンド・マネジャーがもっと必要ということになるだろう。

映画愛好家としての「大いなる陰謀」の評価
映画愛好家ないし映画の消費者として「大いなる陰謀」を語ると、確かに最近の映画としては早口の長い台詞が続き、「ひたすら眠い」というレビューが支持される理由は理解できる。しかし、アメリカの問題を把握し、ある程度英語が分かる観客にとっては、3大スターの早口の長台詞は緊張感を与える効果が期待できる。この辺が「アメリカが抱える病巣が分かる」といった本作を高く評価するレビューが支持される所以であろう。しかしながら、アフガニスタン問題、格差社会の問題、ネオコン的エリートの非人道的判断基準等々が、あまりに直裁に描かれており、意外性という映画の楽しみが感じられない。しかも、この映画の主張しようとするものが純粋な社会正義なのか、ブッシュ共和党政治に対する民主党プロパガンダなのかが今ひとつはっきりしない。本作を推進したと言われるR.レッドフォードやT.クルーズが民主党支持者なのか、民主党プロパガンダ映画として採算は度外視しているのかは知らない。しかし、民主党プロパガンダ映画だとすれば、3大スターが政治の在り方を映画で直裁に批判する国、アメリカは素晴らしい国と感じるファンをあまりに馬鹿にしていると言わざるを得ない。「アメリカ映画の良心」と呼ばれるR.レッドフォード作品だから、そうは考えたくないが・・・。また、共和党支持者は本作を見たくないだろうし、民主党支持者にはあまりにストレートで聞き飽きた主張であろう。更に、アメリカ映画の最大の消費者であるアメリカの低中間層や外国観客にとっては、あまりの長台詞と政治的主張は面白くないはずである。誰を観客と想定してこの映画は作られたのであろうか?
「大いなる陰謀」の総合評価として、{映画愛好家としては、R.レッドフォードに敬意を表して5点満点の4点。映画投資家の観点からは、先ず投資回収は出来ないと思われるが、赤字は民主党支持者が多少は面倒みるかもしれない映画だから2点とする。}