アンジェイ・ワイダ 祖国ポーランドを撮り続けた男

 NHKは軍資金も人材も豊富である。昔、金融関係のドキュメンタリー制作をお手伝いして、他のテレビ局との大きな差を感じさせられた。したがって、NHKのドキュメンタリーには、世界的水準の作品が散見されても不思議ではない。6月15日に放映されたETV特集アンジェイ・ワイダ 祖国ポーランドを撮り続けた男」も大変面白かった。残念ながら、ワイダの作品は「灰とダイヤモンド」以外は観たことがないが、「地下水道」「大理石の男」と辿ることにより、いかに繊細な配慮をして画面にメッセージを折り込んだかに驚かされ、また映画が果たしてきた歴史的重さを改めて痛感させられた。ゴミクズみたいな映画もたくさん作られている日本の現状は、映画に対する冒涜ではないかとさえ思う。

 そのワイダがポーランド軍属であった父親が犠牲になった虐殺事件を題材に、最新作「カティン」を発表した。この事件は、1940年にカティンの森で数千人のポーランド軍将校が虐殺され、ソ連の情報操作により、長らくナチス・ドイツの犯罪と喧伝されていたが、真実はソ連軍による犯罪であることが判明し、ワイダが執念を持って映画化したということであった。これは観なければならないと思い、いろいろ検索したが、日本では劇場公開はもとよりDVDですら観ることが出来ないことが判った。それどころか、ワイダの作品はひとつもDVD化されておらず、古くて高いVHSを購入するより観る術がないようである。どうも巨匠ワイダの作品は、値段が高い上に、日本では十分な観客が確保できないと言うことらしい。「花より男子」を観て育つ若者と「灰とダイヤモンド」を観て育った若者では相当な違いが出るはずで、その選択が許されないようでは、世界をリードする人間が育つようには思われない。

昨日、久しぶりに、NYUの映画学部のPh.Dを持つ才媛と話す機会があったが、なんと彼女はニューヨークで「カティン」を観たとのことであった。羨ましいと思ったが、彼女の話がまた面白かった。「黒澤も例外ではないけど、巨匠の末期の作品には良いものが少ないのよ。「カティン」も例外ではなくて、古くさい作りで傑作とは言えないと思う。アメリカでさえ、観る人が限られていたわけで、日本に持ち込んでも大赤字に終わるだけでしょうね。」なんと素っ気無い。これがプロの判断力というものなのか?仮に彼女の言うとおりの作品であるとしても、自分で観てみたい。それが文化国家であり、選択肢の多いことが取り敢えず人間の幸せのはずである。

 いろいろあるが、兎に角NHKにはガンバッテ欲しい。NHKが日本の文化水準の底上げに果たしている貢献は少なくないと思う。(出来れば、アメリカの野球やバスケに無駄金を使わないで欲しい。)福地さん、ガンバレ。