風説の流布

オリンピックでの超人たちの感動的な活躍を観ていると、こんな薄汚い話を書くことが惨めに感じられるが、まあ人生いろいろである。
 「風説の流布」とは、金融商品の価格を変動させる目的で、虚偽の情報を流し、相場操縦をはかることで、金融商品取引法上の禁止行為の一つである。この話題を取り上げたくなった理由は三つある。
 第一の理由は、ツンドクになっていたある本を読み終わり、風説の流布を思い起こしたからである。著者は、本当の姿はよく解からないが、長年にわたり金融商品のドギツイ相場観を書き出している方で、相場の世界では知る人ぞ知る名前である。最近、恐慌と言った過激な言葉を使い、何冊か本を出版されたので、久しぶりにご高説を拝聴することにした。しかし、驚いたことにこの本の95%は極めて常識的で異論の余地が少ない事実分析に終始しており、使っているデータも細部に関するものが多く、とても超多忙な人の洞察を聞いている感じではない。つまり、出版社の編集担当といったレベルの人が目に付く材料を料理し直したといった退屈で聞き飽きたことが繰返されている。一つだけ独断的なポイントは、金投資をすべきであるということに尽きている。本書が、金相場を更に高騰させるための風説の流布であり、今なら出版部数が稼げると考えた出版社がゴースト・ライターに書かせた本であるという証拠を確認しているわけではないが、出版界の内情を多少知っているものとしてはそのように推察してしまう。超一流の出版社であるだけに、気になる。
 第二の理由は、前の米国連邦準備理事会(FRB)議長のグリーンスパン氏が気楽に過激な発言をし過ぎているように思われることである。どの程度の根拠で発言されるのかは知らないが、先日まで監督当局の中心に居られたわけで、極めて影響力が大きいだけに、その発言に根拠があればインサイダー情報の問題に、根拠が無ければ風説の流布の問題に抵触しかねないはずで、発言を大幅に控えるのが公人であった人として当然であると思われる。
 第三が、ある大新聞の本社主幹の極めて悲観的なオピニオンの掲載である。この主幹の方が世界の情勢にどれだけ通じているかは存じ上げないが、グリーンスパン前議長の尻馬に乗るように「世界経済は真性のプライム危機にある。」と断言されるだけの判断材料を持っておられるのであろうか?このオピニオンが掲載された日に、日本の株式市場は大幅な価格下落をみせた。

 あらゆる情報や判断を折り込んだもっとも効率的市場はニューヨーク株式市場や為替市場だと言われるが、そのような効率的な市場が現状を判断しかねて、ヴォラティリティ(価格変動)が高くなっている。その中で、程度の差はあるが上記のように風説の流布とも言うべき軽率な行動、あるいは悪意ある行動が目に付くことは、それらが本当の恐慌のトリガーになりかねない現状だけに大変心配である。