強欲資本主義

 神谷秀樹「強欲資本主義 ウォール街の自爆」(文春新書)を一気に読み終わった。私の現状認識にこれほど近い内容の本も珍しい。このブログの「サブプライム・ローン問題」に関する記述を読み返していただくとお解かりいただける様に、私もウォール・ストリートを中心とするGreedに支配された連中が金融技術を悪用したことが、現在の金融危機の原因であると考えている。
しかし、この指摘は新しいものではなく、「金利の神様」と言われたソロモン・ブラザーズのヘンリー・カーフマンが「金融技術革命は、規制緩和(自由化)のごたごたした雰囲気のなかで、利潤動機によって火をつけられた」と既に80年代前半に警告していた。当時のソロモン・ブラザーズは、住宅抵当証券MBS)業務の最大手で、その内情を踏まえてのカーフマン博士の指摘であったから、強く印象に残っている。また、この時期のソロモンMBS業務の混乱した内幕を暴露したベストセラーにM.ルイスの「ライアーズ・ポーカー」がある。つまり、1970年代後半からウォール・ストリート主導で始められた金融自由化は強欲資本主義のホーム・グランドとなり、金融技術革命は強欲資本主義のシモベとなってきたわけである。たいしたこともない連中が、認識のギャップや情報の非対称を利用して、巨額の金をむしり取ってきたわけである。ボエスキーやミルケンのインサイダー取引からエンロン事件に到るまで、犯罪行為が繰返されたにも拘らず、強欲資本主義者は法律には触れないものも含めた金融犯罪を繰り返し犯し続け、現在の金融危機でついに世界を奈落の底に落としてしまうのであろうか?投資銀行ゴールドマンから財務長官になったルービン氏やポールソン氏、あるいは長期間FRB議長を務めたグリーンスパン氏等々は、確信犯ではなかろうか?確信犯でないとすれば、あまりに無能であったということになってしまうだろう。
日本の金融機関にあって、ウォール・ストリートに追いつく努力を重ねてきた立場から言えば、彼らがインチキをしているのか技術的に遥かに進んでいるのかを判断することは容易ではなかった。最近話題のAIGが好例で、デリバティブ取引やストラクチャード・ファイナンスリスク管理に自信が持てず、難易度の高い部分をAIGに引取ってもらうことも多かった。現時点で振り返れば、AIGもいいかげんなリスク管理しかやっていなかったということになる。リスクが爆発する前に引退や転職した連中は、フロリダやハワイで優雅な生活をしているのであろう。
強欲な連中が世界を危機的状況に追い込んだことは許せないが、日本の金融機関を世界的レベルに引き上げる目標で仕事をしてきた私にとっては、ウォール・ストリートで働く神谷氏が良心的インサイダーとしてその強欲と欺瞞を指摘されることで救われる感じもある。しかし同時に、小さな狐が大きな狐を悪くいうことで、自分の獲物を増やそうとしているとの疑念も拭えない。現在の混乱を収拾することが先決であるが、その次は金融や金融技術の本質を理解した人を増やすことにより、その生産的平和利用を確立すべき時期である。そのためには、強欲な不当利得を制御する経済社会システムの構築が前提となる。