「金融恐慌本」読み比べ(2)

竹森俊平「資本主義は嫌いですか」の面白い点は、バブルは経済成長に必要であると主張するティロールのような経済学者の紹介であった。彼らの主張は、動学的効率性の条件(その経済における投資収益率が成長率を上回る)が満たされない場合には、バブルが経済効率の改善につながりうることをあきらかにしたとするものである。
つまり、「動学的効率性の条件」が満たされないような経済では、投資が既に過剰になっているので、投資収益の低い投資の資金を向けるよりも、なんらかのバブルに向けた方が経済にとってはプラスであると主張する。更に過激な意見は、日本や新興国の過剰貯蓄をアメリカが一手に引き受ける状況が続くのであれば、アメリカはバブルを作り出すことを避けられない。ITバブルが崩壊しても、アメリカが世界の過剰貯蓄を引き受けさせられる状況が変化しないのであれば、世界は形を変えた次のバブルを必要としていることになる。それが今回のサブプライム・信用リスクのバブルである。「すべての経済はバブルに通じる」という、題名は明確で内容が不明瞭で説得力を欠いた本が何故存在するのかも、竹森先生の説明でやっと理解することが出来た次第である。
先に、ポールソン前財務長官が「世界の経常収支の不均衡が、米国の金利を押し下げて投資家が高いリスクの資産を購入する下地となった」「貯蓄過剰で成長が著しい中国や産油国では資金が余剰となった。金融危機は世界的な失敗である。」という身勝手な発言の裏には前述の見解があるのであろう。ドルは世界通貨であり、アメリカは大事なお客さんであり親分であると勝手にマインド・コントロールにかけ、ドルを積み上げて大きな機会損失を被っている日本が本当に馬鹿な国に見えてくる。ポールソンによれば「世界的な信用バブルはサブプライム・ローン問題を超えて問題で、日本も戦犯の一人だ」ということになる。実際、このような見解を纏められている日本人の著名な経済学者もおられる。あまりに奇をてらった自虐的過ぎる意見だと思うが、日本に金融資源大国としての自覚が欠落していることは事実であろう。