「社長になれなかった男」

 人間誰しも人生を生きているから、一冊だけは本が書けると言う。「ガラスの巨塔」という元NHK「プロジェクトX」のプロデューサーが書いた自叙伝的小説を面白く読んだので、ツンドクになっていた本書も読むことにした。ともに、著者が素晴らしい業績を残したのに、正当な評価の出来ない組織、嫉妬と妬みの渦巻く人間社会の犠牲になり、不遇な終焉を迎えることになったという恨み節が共通のテーマである。
 私も同じような恨み節が無くは無いので、両著とも共感を感じる点が少なくなかったが、読み終えて、愉快な気持ちにはなれなかった。両著とも、自分のことと自分の考えを専ら述べ続け、他人の努力や他人への感謝の記述がほとんど見つからないからである。両著者ともそれなりの社会的実績を上げて来ておられるわけで、赤ん坊の時に言葉や習慣を覚え始める時期から始まり、我々の大半のものはヒトサマから教えていただいたものであり、自分一人で成し遂げたことは僅かでしかない。そんな自明のことを忘れ、自分の優秀さと恨み節を歌い続けても、読者の大きな共感は得られない。自己正当化を上手に行うことの難しさを改めて感じさせられた。