専門職大学院を崩壊させるな!

 法科大学院を筆頭に「高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うことを目的とする」文科系修士コースである専門職大学院制度が作られて8年になる。しかし、現状は満足な運営が行われているケースは少数であり、採算問題、就職問題など、この制度を崩壊させかねない深刻な問題を抱えている大学が多い。
 公認会計士育成の本流であるべき会計職大学院の就職浪人問題の一助として検討されていた、「企業財務会計士」という苦肉の新資格も制度化が見送りになった。
 専門職大学院の抱える最大の問題は、出口問題、つまり「高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力」を得ても、世間がその能力を正当に評価し、有効活用できていないことにある。例えば、どの程度の企業が人事戦略の専門家に採用問題を検討させているであろうか?そもそも、人事戦略専門の経営学修士MBA)という職種の専門訓練が存在していることを知っているのであろうか?つまり、専門職大学院の出口問題は、ほとんどの日本企業では半素人のような人材達が人事、経理、財務、企画、広報活動等々を仕切っているから、「高度の専門性」が存在することすら理解できておらず、したがって、専門職大学院卒業生の専門性にプレミアムを支払って採用することが、アルバイトにうつつを抜かし何も知らない大学卒を採用するより遥かに合理的であり、それが専門職大学院が作られた理由であることが理解されていない。言わば、素人がいいかげんな社内教育で素人を再生産しているのが、日本の文科系実務家(含む、政治家、役人)の教育であり、それが日本の停滞に繋がっているわけである。「もしドラ」に代表される3時間で読める素人向けの専門書マガイがベストセラーになる状況は、ドラッカーすら読んだことがないのに経営問題を考えさせられている人間がたくさん存在していることの証明である。会計、金融、経営等々のベストセラー・リストを見れば、日本のレベルの低さは明白である。こんなレベルでは、国際市場ではまったく通用しないし、話の環の中にすら入れてもらえず、益々取り残されるばかりである。
 日本を悪くしてきたのは、政治、行政、経営といった文科系専門教育のレベルの低さであり、それに気づいた人が起案した専門職大学院制度は無知な連中が多数派の世間の理解を得られず、無用の長物化し崩壊しつつある。このままでは、日本は外国資本に搾取される半自閉症のような技術者と労働者だけの国になってしまうのではないだろうか。