小人閑居して何もせず

 帰国時の時差調整に失敗したせいか、はたまた、日本の残暑が厳しいせいか、大したことをしないまま時間ばかりが過ぎて行く様な感じである。大学の後期授業の開始も再来週で、自由になる時間が多い時期で、将に小人の閑居である。「自由からの逃走」ではないが、ある程度、社会や対人関係で拘束される時間が多い方が、効率良く物事が処理できたようにも思われてくる。
 古くからの友人の家で、手作りの夕飯をご馳走になり、楽しい世間話をして帰宅したところだが、このような予定をたくさん入れて、思い出の写真集を整理するような老人生活にはなりたくない。まだまだ研究したり本にまとめたいことがたくさんあるし、死ぬまで読み続けても読みきれないだけの本の在庫もある。時間の足りなかったサラリーマン時代には望むべくも無かった生活ではあるが、小人閑居して不善をなす生活にもっと緊張感を取り戻したいと思う。龍馬は、「ドブの中でも前を向いて死にたい」と言ったそうであるが、小人は孤独を恐れ、本当に打ち込むべきことに集中できないのであろうか。

10月相場をどうするか

 夏休み前に、TOPIXをショートしておいたが、グローバルな株式市場の下落が予想以上で、休暇中にまたもや損失が増加し、年初からタダ働きをしてしまったことになる。多少の慰めは、子供が留学していていた時には、230円で買っていたポンドが130円前後となり、イギリスの物価や女房の生活費が割安に見えていることであろうか。イギリスの高速道路の印象では、日本車や英国産フォードが減少し、ドイツ車が増加し、韓国車が目に付くようになったように思う。女房の安物テレビがサムソンで、PCはアップルであることを見ても、最後の円高期が始まっているとしか思えない。
 外貨も日本株も割安水準にあると思うが、中国、インド、ブラジルといった代表的新興国の経済状況が悪化し、今頃レーマン・ショックの住宅ローン証券の後始末の損害賠償請求をしたり、格付け機関の規制を議論しているようでは、経済官僚の辞職が続くアメリカ政府も頼りにならないし、ヨーロッパの混乱も依然続いており、相場はもう一段の下げを見せるのではないだろうか。ブラック・マンデイに限らず、歴史的に10月に証券市場が大幅下落したことが多いのも気になる。更に、ショート・ポジションを増加させることも考えなくてはならないが、外貨も日本株も割安に見えるので、悩ましいところである。ここで大きくショートが取れるようであれば、相場師になれるのかもしれないが、残念ながら一介の老教授にはそれだけの勝負度胸の持ち合わせはない。

素晴らしい夏休み Again!

 昨年の夏休みが素晴らしかったので、今年はそれを越えられないのではないかと心配していたが、またまた素晴らしい夏休みを終えることができた。日本のサラリーマンを頑張っている長男が、今年は10日間の夏休みを取ることができたので、3人の子供達夫婦と孫6人の全員14人がイギリスのSouth Downsの麓の女房の田舎の家に集まることができた。神に感謝します。
 娘の長男で2歳半ともっとも年下の「朋」が、大変なnaughty boyで、寝ていない時には彼が雰囲気を支配することになっていた。日・英・ヒブルーの3ヶ国語を大変流暢にしゃべり、状況判断も正確で、原則「チガウヨー」という否定形で話が始まり、チャーミングな頑固者なので何かと時間が掛かった。将来が楽しみというより末恐ろしいような腕白坊主で、4歳になったばかりの日本の良い坊やである長男のところの三男が何度も泣かされていた。
 今年の夏は、やや天候不順と言われたイギリスは、長袖シャツに時々セーターといった按配で、日本の初秋のように過ごし易く、それだけでも行くに値する。孫達の宿題の絵日記を読んでも「楽しかった」とか「帰りたくない」といった記述が多く、夏休みを大いに満喫したようである。エコノミー・クラスであっても、日本から6人、アメリカから3人がイギリスを往復するので、宿泊費は必要無くとも結構な物入りで、この程度の贅沢は余裕を持って続けて行きたいものである。来年はロンドン・オリンピックの年でもあり、果たしてどうなることであろうか。Many returns of the summer holidays in South Downs.

夏休み

 明日から3週間イギリスで夏休みです。3人の子供と6人の孫全員が女房の家に集まれるので、大変楽しみです。
国際金融業界のプロの間では、高給を稼げる投資銀行に入社出来なかった連中が就職している格付け機関の判断は素人向けの後追い情報と見なされ、日本のマスコミが騒ぐほどには重要視されていません。毎週先陣を切って始まる田舎マーケットの東京でも、このようなプロの判断から予想外に静かな一日に終わったのだとすれば、大変結構だったと思います。
 結局、外貨資産は増やさずに、割安と思われる日本株の買い増しとインデックスのショートのポジションで休暇に入りました。多分、この判断で間違いはないと思ってます。

相場操縦

 世界的な株安が続く中、米国国債の格下げもあり、明日の東京市場は結構な円高・株安で始まることになろう。これで、年初から積上げてきた株式投資の利益がほぼ吹っ飛ぶことになり、外貨投資の評価損が増加することにもなり、大変残念である。
 中期的には、米国経済の実態が悪いはずなのに米国株や多くの外国株式は割高、欧州の経済混乱は長期化、中国の株価の中期下落継続から中国経済は相当に悪い、日本の株式は買い手がいないが故の割安放置、本当に怖いのは長期の円低落期に突入してしまうこと、これらの中期見通しは今日も変わっていないので、夏休み休暇中のポジションをどうするか、明日中に決めなければならない。夏休みの準備として、ロング・ショートであった日本株のショートを解消してしまったことが悔いられる。
 基本的には、日本株と外貨資産を慌てて売ることはしない。相場が大きく下落するなら、明日は日本株と外貨資産を買いますか夫々のロング・ショートにするのが正解であると思うが、明後日から3週間海外に行く予定だから悩むところである。円高が続いていることは、円の借金をしてない限り、世界金持ちランキングにおける日本人の順位が上がったのだからと喜べるほどの度量を持って生まれたかった。私の円建てで考えた運用損も、円預金や円建債券MMFが半分近くを占めるから、ドルやポンド建てで考えれば、利益になっているはずである。英米かマレーシアで老後を過ごすことにすれば、満更悪いことばかりでもない。
 こんなことを考えていたら、喋りすぎる元財務官が、朝の報道番組で、ドルは70円、日経株価指数は8000円てな相場観を嬉々として話しておられた。彼が本当に自分の言葉を信じているのであれば、巨額のドルショート・円ロングと日経指数の空売りをやっていなければ、おかしいことになる。ヘラヘラと笑っている顔には、相場を張っている緊張感は微塵もない。元財務官の彼が単に自分の根拠薄弱な私見をテレビで公言しているのであれば、これは立派な相場操縦と言えるだろう。
 東大や一橋の客員教授として金融を教えたことがある私でも、金融証券市場で結果を出し続けることは本当に難しい。老化防止には格好の場を提供してくれている。

精神を病む政治家達

 「大統領はペイに見合わない激務であるから、大統領になろうとは思わない」という意見のアメリカの子供が過半を越えたと報道されたのは、相当に昔のことである。日本の総理大臣も、難問や解決不能の問題が山積みの現状で、公表された収入しかないのであれば、とてもペイに見合わない職業のように思われる。安倍首相に続くお坊ちゃま達が4代に亘り職場放棄するように短命に終わったことは、食べる心配のない人々にはとてもやってられない職業であるということなのであろう。
 既に報道されたことであるが、尋常でない言動で復興担当大臣を辞任した松本龍氏は「気分障害で軽度の躁状態」と診断されている。世間が注目する復興担当大臣の重圧が病状を悪化させたのであろうが、菅総理の盲目とも言うべき任命判断の誤りは恐ろしいことである。
 菅総理ご本人にも「敵対性鬱病」ではないかとの疑いが持たれている。マスコミが連日流し続ける菅総理のネガティブ情報を、話半分として聞いても、この疑いは増幅するだけである。連立を組んでいる国民新党の亀井代表にも鬱病ではないかという観測がある。仮に、精神を病んだ政治家達が権力の座にいるとするなら、我々はどうすればよいのであろうか。似たような状況の国は他にもあるでは済まない。

長谷川英祐「働かないアリに意義がある」

 川島隆太茂木健一郎養老孟司等々、脳科学者のような顔をして大衆に向けて「脳科学」を説く連中の話は、ほとんどがマスコミや出版社と共謀して作り出したフィクションに過ぎないという話を聞いたことがある。確かに、私が専門とする「ファイナンス」や「経営」の話の最先端を素人の方々に理解していただくことは容易ではないし、したり顔でいい加減な内容の話をしたり、本を書いたりしている連中も少なくない。学外で目立つ先生方で、学内では隅の方で小さくなっているケースも意外に多い。
 このような風潮の中で、本当の研究者が、先端の研究成果を素人に楽しめるように書き出したり話したりしてくれると、知的興奮を覚える。真社会性生物の進化生物学研究者の長谷川英祐さんがまとめられた「働かないアリに意義がある」という新書は将にそのような啓蒙書で、大変面白く、また自分の専門分野の考察を深める刺激を与えてくれた。
 70%の働かないアリの存在が、真社会性生物であるアリの社会の存続には合理的である、といった素人の日常常識や経済学的合理主義の経営組織論に水をかける議論は、大変刺激的だ。出版社とベスト・セラー・ライターが好む3時間で読み終わるとゴミになってしまうような啓蒙書が多い中で、本書にはもう一度時間をかけて再読する必要を感じるくらい歯ごたえのある部分も少なくない。
 本屋で立ちすくんでしまうほどの本が出版され、新しいメディアで溢れかえる情報が提供される昨今、情報源や本の選択は本当に難しい。本書のように、自分の知的水平線を広げてくれる本や情報源をどのように選択していったらよいのであろうか。
 また、難しいもう一つの選択は、自分の知的レベルの鍛錬に気をとられていると、自分の考えを発表する時間が無くなってしまうことである。愚者のみの声が聞こえる社会は恐ろしいものである。聖者は黙して語らずで良いとは思われない。